甲町収入役が同町工事請負人から同町の土木委員町会議員等の一部に対する慰労金として金員を受け取り補助員に保管させていた場合、被告人が同補助員に対して同町土木委員長乙及び同町町会議長丙等の諒解を得ていないのに拘らず得ている旨申し欺いて右金員の交付を受けたという事案において、乙、丙の諒解を得なければ右金員を引き出すことが出来ない事実を判示しないで詐欺罪の成立を認めることは理由不備の違法がある。
詐欺罪と理由不備
刑訴法411条1号,刑訴法378条4号,刑法246条1項
判旨
詐欺罪における欺罔行為といえるためには、偽られた事実が交付の判断に影響を及ぼす重要な事項であることを要し、単に虚偽の事実を述べただけでは足りない。また、領得した金員が委託の趣旨に沿って使用された場合には、不法領得の意思が否定される余地がある。
問題の所在(論点)
交付の前提として第三者の了解が不可欠でない場合、了解を得たという虚偽の事実を告げる行為は詐欺罪の欺罔行為にあたるか。また、受領した金員を委託の趣旨に沿って使用した場合に詐欺罪が成立するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の成立には、欺罔行為とそれに基づく交付判断の因果関係が必要である。すなわち、相手方が錯誤に陥り金員を交付するにつき、偽られた事実が「その事実がなければ交付しなかったであろう」といえる重要な事項であることを要する。また、行為者に不法領得の意思が認められない場合には、詐欺罪は成立しない。
重要事実
被告人は、町役場に保管されていた工事請負人からの慰労金5,000円を引き出す際、係員に対し「土木委員長及び町会議長の了解を得ている」と嘘を言い、現金を受け取った。しかし、実際には両名の了解を得ていなかった。また、被告人は引き出した金員を工事請負人の委託の趣旨(関係者への慰労)に沿う方法で一部使用した可能性があった。
あてはめ
本件において、土木委員長らの了解が金員引き出しの法的・事務的な必要条件であったか、あるいはその了解がなければ係員が交付しなかったであろうという事実関係が確定されていない。単に役職者の了解があると言っただけでは、直ちに交付判断に影響を及ぼす重要な事項への欺罔とは断じられない。さらに、交付を受けた金員が委託の趣旨に沿って正当に使用されたのであれば、経済的価値を享受する意思としての不法領得の意思が欠ける可能性がある。
結論
被告人の行為が直ちに詐欺罪を構成すると判断することはできず、審理不尽・理由不備の違法がある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
詐欺罪の成否を検討する際、単なる「嘘」の有無だけでなく、それが「交付の判断における重要な事項」であったかを具体的に論じる必要がある。特に、金員の使途が本来の目的に沿っている場合には、不法領得の意思の有無を検討する際の有力な考慮要素となる。
事件番号: 昭和24(れ)399 / 裁判年月日: 昭和26年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】供出義務を免れ、かつ還元配給を受ける目的で、保有米の事実を秘匿して虚偽の申告を行い、担当吏員を誤信させた行為には、詐欺罪の犯意が認められる。 第1 事案の概要:被告人は、昭和21年度の収穫米約13石および前年度からの繰越し籾約6石を保有していた。しかし、供出義務の一部を免れ、かつ主食の還元配給を受…
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…