詐欺の事実につき事実誤認の疑いないし審理不尽などの違法があるとされた事例
刑訴法411条
判旨
詐欺罪の成立には欺罔行為とそれに基づく錯誤、及び犯意が必要であり、将来の修理を装ったとされる事案でも、最終的な精算予定や依頼者側の早期決済の要望等の諸事情があれば、犯意の認定に慎重を期すべきである。
問題の所在(論点)
未だ修理が完了していない、あるいは相手方が辞退している車両について修理代金を請求し受領した行為につき、詐欺罪の犯意(不法領得の意思を含む)を肯定できるか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)が成立するためには、被告人が真実を秘して相手方を誤信させ、財物を交付させるという「詐欺の犯意」が認められなければならない。事実認定においては、直接証拠がない場合であっても、間接事実や状況証拠を総合的に検討し、合理的疑いを超える程度の証明が必要とされる。
重要事実
小学校教諭の被告人は、B社の依頼で事故被害車両16台の修理・補償事務に従事していた。そのうちE社の車両について、E社から「修理不要」との申出を受けていたが、被告人はB社に対し、未修理であることを伏せ(または将来修理するよう装い)、修理代金請求書を提出して現金の交付を受けた。一審・二審は、修理不要と知っていた以上、代金請求は詐取の意思に基づくものとして有罪とした。しかし被告人は、B社役員から「8月末までに全車両の請求書を出してほしい」と急かされていたこと、修理済みと未着手を区別して管理していたこと、最終的に精算する予定であったこと等を主張した。
あてはめ
本件では、(1)B社側から事務の早期終了を求められ、被告人も多忙から事務を整理しようとしていた背景がある。(2)被告人が提出した請求書には、修理済みのものと異なり納車済みの記入がないなど、区別がなされていた可能性がある。(3)最終的に精算書を提出する約束があったとされる点、(4)共犯者やB社担当者の証言も被告人の弁解を裏付けている。これらの事情を総合すると、被告人が「修理する必要もその見込みもないことを知りながら将来修理するように装って」代金を騙取しようとしたと断定するには、なお合理的な疑いが残るというべきである。したがって、詐欺の犯意を肯認した原判決の事実認定には重大な誤認の疑いがある。
結論
被告人に詐欺の犯意を認めるには証拠が不十分であり、事実誤認の疑いがあるため、原判決を破棄し差し戻すべきである。
実務上の射程
実務上、欺罔行為や犯意の有無が争われる事案において、単に「不実の告知」があったという形式面だけでなく、その背後にある取引の経緯、精算の合意、被告人の主観的意図を裏付ける状況証拠を詳細に検討すべきとする考慮要素を示すものとして活用できる。
事件番号: 平成11(あ)1614 / 裁判年月日: 平成13年1月25日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】休業損害証明書に虚偽の記載が含まれていたとしても、被告人が以前に転職の事実を担当者に告げ、指示通りに複数の資料を提出して判断を委ねる意思であったなどの事情がある場合には、詐欺罪の故意を認めることはできない。 第1 事案の概要:被告人は交通事故による頸椎捻挫で通院中、勤務先をA社からC社へ変更したが…