判旨
控訴趣意書が「深い悪意がない」として情状酌量を求めているに過ぎない場合、これを前提とした原判決が有罪を維持しても、犯意の欠如を認めたことにはならず、理由不備等の違法も存しない。
問題の所在(論点)
控訴趣意書における「深い悪意がない」との主張が「犯意(故意)の欠如」を主張するものといえるか、また、その事情を認めた原判決に理由不備等の違法があるか。
規範
被告人が主観的態様について「深い悪意がない」という趣旨の主張を行い、それに基づいて情状酌量を求めている場合、当該主張は犯罪の成立を否定する「犯意の欠如」を主張するものではなく、量刑上の事情を述べるものと解される。したがって、裁判所が当該事情を認めた上で有罪判決を下したとしても、判決に矛盾や理由不備の違法は認められない。
重要事実
被告人の弁護人が控訴趣意書において、「被告人に深い悪意があってやった行為ではないと観察される」等の事情を述べ、「情状酌量の恩典に浴し減軽又は執行猶予の裁判を仰ぎたい」と主張した。これに対し、原判決(控訴審)は「所論の事情を認めることができる」と判示しながらも、被告人の有罪を維持した。これに対し弁護人は、原判決は犯意がないことを認めながら有罪としたものであり、罪となるべき事実を明示せずに有罪判決を言い渡した憲法違反等があるとして上告した。
あてはめ
本件において、弁護人は「深い悪意がない」との文言を用いているが、その帰結として「情状酌量」による減軽や執行猶予を求めている。この文脈に照らせば、当該主張は犯意そのものを否定する趣旨ではなく、あくまで犯行の動機や態様における悪質性が低いことを強調する量刑上の主張にすぎない。原判決が「所論の事情を認める」としたのは、この情状面での主張を肯定したにとどまるものであり、犯罪構成要件としての犯意を否定したことにはならない。よって、有罪判決の結論と原判決の判示内容との間に矛盾は生じていない。
結論
被告人に犯意がなかったことを認めたことにはならず、有罪判決と矛盾しない。上告棄却。
実務上の射程
量刑上の事情としての「悪意の欠如」と、構成要件的故意としての「犯意」を明確に区別する実務上の運用を確認したもの。答案作成上は、被告人の主観に関する主張が「構成要件該当性を争うもの」か「単なる情状の主張」かを判断する際の区別の視点として示唆を与える。
事件番号: 昭和26(れ)697 / 裁判年月日: 昭和26年8月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】単なる量刑不当の主張は、刑事訴訟法405号所定の上告理由には該当しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件について有罪判決を受け、これに対し弁護人が上告を提起した事案。弁護人の上告趣意は、原判決の量刑が重すぎるという量刑不当を主張するものであった。 第2 問題の所在(論点):単なる量刑不当の主張…