控訴審第一回公判期日において弁護人が陳述しない旨述べた被告人提出の控訴意旨書がその諭旨必ずしも明確ではなく、右公判期日に出頭していた被告人が弁護人の右措置につきこれを争う態度を示していない場合には、被告人の控訴趣意について判断をせず弁護人の控訴趣意についてのみ判断したとしても、違法ではない。
弁護人によつてなされた被告人出の公訴趣意書の撤回が有効とされた事例
刑訴法376条1項,刑訴法389条,刑訴法392条1項
判旨
被告人が自ら提出した控訴趣意書の内容が不明確であり、公判期日に出頭した被告人が弁護人による当該趣意書の陳述撤回を争う態度を示さなかった場合には、裁判所が当該趣意書について判断を示さなくても適法である。
問題の所在(論点)
被告人が提出した控訴趣意書を弁護人が陳述しない旨述べた場合において、裁判所が当該趣意書について判断を示さないことが、被告人の裁判を受ける権利(憲法32条、76条等)や刑事訴訟法上の手続規定に違反しないか。
規範
被告人が自ら差し出した控訴趣意書について、弁護人がこれを撤回することは刑事訴訟法上全く許されないわけではない。具体的には、趣意書の内容が必ずしも明確ではなく、かつ被告人が公判期日において弁護人の撤回措置に対して争う態度を示していない場合には、裁判所は当該控訴趣意について判断を要しない。
重要事実
被告人が自ら控訴趣意書を差し出したが、原審の第一回公判期日において、弁護人は当該趣意書を陳述しない(撤回する)旨を述べた。被告人提出の趣意書は論旨が必ずしも明確なものではなかった。また、被告人自身も同公判期日に出頭していたが、弁護人が行った撤回措置に対して特に異議を述べたり、争うような態度を示したりすることはなかった。原判決は、弁護人が提出した控訴趣意についてのみ判断を示し、被告人提出の趣意については判断を行わなかった。
事件番号: 昭和44(あ)1390 / 裁判年月日: 昭和44年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法に明文の規定がなくても、控訴趣意の撤回は法律上許容される。弁護人が被告人名義の控訴趣意を陳述しない旨述べ、被告人が異議を唱えなかった場合、裁判所が当該趣意に判断を示さなくても違法ではない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が控訴を提起し、それぞれ控訴趣意書を提出した。原審の第一回公判…
あてはめ
本件では、被告人本人が提出した控訴趣意書の内容が不明確であった。加えて、弁護人が公判で当該趣意書を陳述しない旨を表明した際、その場に出頭していた被告人はこれを容認し、争う姿勢を一切見せていない。このような状況下では、実質的に被告人自身も弁護人の措置を追認していたものと評価でき、弁護人による撤回は有効である。したがって、裁判所が弁護人の示した控訴趣意についてのみ判断を行い、被告人提出の不明確な趣意を審理対象から外したとしても、手続上の違法は認められない。
結論
被告人の控訴趣意について判断せず、弁護人の控訴趣意についてのみ判断した原判決に違法はなく、憲法違反も認められない。
実務上の射程
弁護人と被告人の訴訟行為が矛盾する場合の調整指針を示す。被告人が出頭している公判廷で弁護人が被告人の書面を撤回し、被告人が黙認した場合には、信義則上もその撤回の効力を認めてよいとする実務上の処理を肯定したものである。答案上は、被告人の意思に反しない特段の事情がある場合の例外として引用し得る。
事件番号: 昭和26(あ)3130 / 裁判年月日: 昭和27年1月10日 / 結論: 棄却
一 法定の期間内に差し出された被告人の控訴趣意書が、その後適法に撤回されるか、又は公判期日において適法にこれを陳述しない旨の明確な意思表示のなされない以上は、たとえ弁護人がその控訴趣意書に基いて弁論しなくても、控訴裁判所はその控訴趣意に対し判断をしなければならない。 二 控訴裁判所が控訴趣意に対する判断を遺脱した旨の主…