判旨
刑事訴訟法に明文の規定がなくても、控訴趣意の撤回は法律上許容される。弁護人が被告人名義の控訴趣意を陳述しない旨述べ、被告人が異議を唱えなかった場合、裁判所が当該趣意に判断を示さなくても違法ではない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法上に明文の規定がない控訴趣意の撤回が認められるか。また、弁護人が被告人の控訴趣意を陳述しない旨述べ、被告人が異議を述べなかった場合に、裁判所が当該趣意について判断を示さないことは許されるか。
規範
控訴趣意の撤回について刑事訴訟法に明文の規定はないが、その撤回が法律上一切許されないわけではなく、適法にこれを撤回することができる。また、弁護人が公判期日において特定の控訴趣意を陳述しない旨、あるいは情状としてのみ主張する旨を釈明し、被告人がこれに異議を述べない場合には、当該趣意は有効に撤回されたものと解すべきである。
重要事実
被告人および弁護人が控訴を提起し、それぞれ控訴趣意書を提出した。原審の第一回公判期日において、弁護人は自ら提出した控訴趣意のうち一部を「情状として陳述する」とし、さらに「被告人の控訴趣意書は陳述しない」旨を述べた。この際、同公判期日に出頭していた被告人は、弁護人の発言が自己の意思に反する旨を述べるなど、異議を申し立てた形跡は認められなかった。原判決は、これらの陳述されなかった、あるいは情状としてのみ主張された事実誤認の点について、判決中で判断を示さなかった。
あてはめ
まず、控訴趣意の撤回は、明文の規定がなくても手続きの性質上可能である。本件では、原審弁護人が被告人名義の趣意書を陳述しない旨を明示しており、さらに自らの趣意書の一部についても事実誤認の主張を情状立証に切り替える釈明を行っている。この弁護人の訴訟行為に対し、公判廷に在廷していた被告人が何ら異議を述べていない以上、被告人は自己名義の控訴趣意の撤回を黙認し、同意していたといえる。したがって、これらの項目は適法に撤回された、あるいは主張の性質が変更されたものと評価される。
結論
控訴趣意の撤回は認められる。撤回された控訴趣意および情状としてのみ主張された事実誤認の点について、原審が判断を示さなかったとしても、審理不尽や理由不備の違法はない。
実務上の射程
控訴審における審判対象の画定に関する実務上の指針となる。弁護人による控訴趣意の整理や撤回が、被告人の明示または黙示の同意(異議の不在)を伴う場合には有効であり、裁判所はそれに基づき審判対象を限定できることを示している。
事件番号: 昭和48(あ)800 / 裁判年月日: 昭和48年7月17日 / 結論: 棄却
控訴審第一回公判期日において弁護人が陳述しない旨述べた被告人提出の控訴意旨書がその諭旨必ずしも明確ではなく、右公判期日に出頭していた被告人が弁護人の右措置につきこれを争う態度を示していない場合には、被告人の控訴趣意について判断をせず弁護人の控訴趣意についてのみ判断したとしても、違法ではない。
事件番号: 昭和25(あ)812 / 裁判年月日: 昭和25年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審は被告人の控訴趣意書に対しても判断を下すべきであるが、その内容が弁護人の控訴趣意に内含され、実質的に判断されていると認められる場合は、形式的な判断の欠落があっても判決に影響を及ぼす違法とはならない。 第1 事案の概要:被告人が他数名と共謀して偽造小切手を行使したとされる事案において、被告人は…