一 法定の期間内に差し出された被告人の控訴趣意書が、その後適法に撤回されるか、又は公判期日において適法にこれを陳述しない旨の明確な意思表示のなされない以上は、たとえ弁護人がその控訴趣意書に基いて弁論しなくても、控訴裁判所はその控訴趣意に対し判断をしなければならない。 二 控訴裁判所が控訴趣意に対する判断を遺脱した旨の主張は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴第四〇五条に定める上告理由にあたらない。 三 原判決が弁護人の事実誤認の控訴趣意に対して判断している以上は、これと同一の犯罪事実についてなされた被告人の事実誤認の控訴趣意に対して特に判断しなくても、その違法は、原判決に影響を及ぼさないものといわなければならない。 四 原判決が量刑の不当を理由として第一審判決を破棄し、刑訴第四〇〇条但書に従い、職権をもつて第一審判決の認定した事実を是認引用して更に判決をしている以上は、被告人の事実誤認の控訴趣意に対して特に判断していなくても、その違法は、刑訴第四一一条に当らない。
一 控訴審における陳述されなかつた控訴趣意に対する判断の要否 二 控訴趣意に対する判断遺脱の違法と上告理由 三 控訴趣意に対する判断違脱の違法が判決に影響を及ぼさない場合及びその違法が著るしく正義に反すると認められない場合
刑訴法376条1項,刑訴法388条,刑訴法389条,刑訴法392条1項,刑訴法405条1項,刑訴法411条1号,刑訴法400条,憲法32条
判旨
被告人が適法に提出した控訴趣意書は、撤回等の明確な意思表示がない限り、裁判所は刑事訴訟法に基づき調査義務を負うが、その判断を遺脱しても判決に影響を及ぼさない場合は破棄事由とならない。
問題の所在(論点)
被告人が自ら提出した控訴趣意書における事実誤認の主張に対し、控訴裁判所が判断を示さなかったことの適否、および当該違法が判決に影響を及ぼすか。
規範
控訴裁判所は、被告人から適法な期間内に提出された控訴趣意書に包含された事項を調査しなければならない(刑事訴訟法392条1項)。被告人が控訴趣意を適法に撤回するか、または公判期日において陳述しない旨の明確な意思表示をしない限り、裁判所が当該趣意について判断を与えないことは違法である。
重要事実
被告人は控訴期間内に適法に控訴趣意書を提出し、第一審の認定事実につき全面的な事実誤認を主張した。しかし、原審(控訴審)は、弁護人が主張した一部の事実(第3事実)についてのみ事実誤認の有無を判断し、被告人自らが主張した第1・第2事実の事実誤認については特段の判断を示さなかった。
あてはめ
原審が被告人の控訴趣意について判断を与えなかった点は明らかに違法である。しかし、原審は弁護人の趣意に基づき第3事実を適法に判断しており、また職権で第1・第2事実の認定を是認・引用した上で、第一審より刑を減軽している。そうすると、被告人の趣意について個別に判断しなくとも判決の結果に影響を及ぼすものではない。
結論
原審の判断遺脱は違法であるが、判決に影響を及ぼさないため、刑事訴訟法411条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められないとして、上告を棄却した。
実務上の射程
控訴裁判所の調査義務(392条1項)の対象に被告人自身の趣意書が含まれることを明示しつつ、判断遺脱が直ちに破棄事由(判決に影響を及ぼすべき法令違反)にはならないという限界を示している。答案上は、裁判所の調査範囲と判決への影響の有無を切り分けて論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和25(あ)2056 / 裁判年月日: 昭和26年2月13日 / 結論: 棄却
論旨は、原審において控訴趣意として全く主張されず、従つて原審が何ら判断をしていない事項であることは、原判決と上告趣意とを対比して明らかなところであり、かかる論旨が上告の理由としてその適法要件を欠くものであることは、すでに当裁判所の判例として示されている(昭和二五年(あ)第三九一号同年一二月五日第三小法廷判決、昭和二四年…