判旨
刑事訴訟法上、控訴趣意書の撤回を禁止する規定はなく、適法にこれを撤回することができる。被告人の面前で弁護人が控訴趣意書を陳述しない旨を述べ、被告人がこれに異議を述べない等の事情があれば、当該趣意書は適法に撤回されたものと解される。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法上、一度提出した控訴趣意書を撤回することが許されるか。また、弁護人による陳述拒絶の意思表示に対し被告人が異議を述べない場合に、適法な撤回があったと認められるか。
規範
刑事訴訟法には控訴趣意書の撤回に関する直接の規定はないが、これを許さない趣旨ではない。弁護人が被告人の面前で控訴趣意書を陳述しない旨を述べ、被告人がこれに対し異議その他反対の意思を表明しないなど、黙示の同意が認められる場合には、当該趣意書を適法に撤回することが可能である。
重要事実
被告人が自首の事実を主張する内容を含む控訴趣意書を提出した。しかし、原審の第一回公判期日において、出頭していた被告人の面前で、弁護人が被告人提出の控訴趣意書を陳述しない旨を述べた。被告人はこれに対して何ら異議を述べず、反対の意思も表明しなかった。原判決は、被告人が提出した控訴趣意書の要旨を記載せず、これに対する判断も示さなかった。
あてはめ
まず、刑事訴訟法上、控訴趣意書の撤回を禁止する規定はないため、これを認めることができる。本件では、弁護人が公判期日において被告人の面前で「控訴趣意書を陳述しない」旨を明言しており、これに対して被告人が異議を述べなかった事実に照らせば、被告人は弁護人の撤回行為を黙認したものと評価できる。また、撤回された部分に含まれる自首の事実は、記録上認められないものであり、これを除けば弁護人の趣意書と同趣旨であった。したがって、弁護人の意思表示により適法な撤回がなされたといえる。
結論
被告人の控訴趣意書は適法に撤回されたものと認められる。したがって、これに対する判断を示さなかった原判決に違法はない。
事件番号: 昭和44(あ)1390 / 裁判年月日: 昭和44年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法に明文の規定がなくても、控訴趣意の撤回は法律上許容される。弁護人が被告人名義の控訴趣意を陳述しない旨述べ、被告人が異議を唱えなかった場合、裁判所が当該趣意に判断を示さなくても違法ではない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が控訴を提起し、それぞれ控訴趣意書を提出した。原審の第一回公判…
実務上の射程
弁護人による被告人の訴訟権利の制限(撤回)が認められる限界を示す。被告人の明示または黙示の同意(面前での異議なし)がある場合には、弁護人による控訴趣意書の撤回が有効となり、裁判所に判断の必要がなくなる。実務上、被告人と弁護人の主張の齟齬を解消する手続的な有効性を認めた判例である。
事件番号: 昭和29(あ)4187 / 裁判年月日: 昭和30年4月15日 / 結論: 棄却
被告人が控訴裁判所に差し出した控訴趣意書を弁護人が撤回することは、刑事訴訟法上全然許されないものと解すべきではない。