原裁判所は弁護士工藤慎吉を弁護人に選任し、同弁護人が控訴趣意書を提出したこと、その後被告人は弁護士宮本九平を弁護人に選任したため原裁判所は工藤弁護人を解任したこと、宮本弁護人は別に控訴趣意を提出し原審公判において自己の控訴趣意書のみに基いて弁論し原審裁判所はその控訴趣意書についてのみ判断し工藤弁護人の控訴趣意書については全然判断しなかつたことは明かである。しかし原審公判調書によれば被告人は公判期日に出頭しており、宮本弁護人は工藤弁護人提出の控訴趣意書については弁論しない旨陳述しているにかかわらず何等異議を述べていないことが判るのである。然らば宮本弁護人は工藤弁護人提出の控訴趣意書を撤回したものであり、しかもそれは被告人の意思に反しないものと認められるのであるからその撤回は有効であると解すべきである。従つて原裁判所が右控訴趣意書について判断しなかつたのは当然であつて違法ではない。
国選弁護人の控訴趣意書提出後に被告人の選任した弁護人が右控訴趣意書については弁論しない旨を述べ、別に提出した控訴趣意書に基いて弁論し、被告人に異議がなかつた場合は右国選弁護人の控訴趣意書の撤回は有効か―全控訴趣意に対し判断しないことの正否
刑訴法389条,刑訴法392条
判旨
新たに選任された弁護人が前任者の提出した控訴趣意書を撤回し、被告人がこれに異議を述べなかった場合、撤回は有効であり裁判所は当該控訴趣意書について判断を要しない。
問題の所在(論点)
後任弁護士による前任弁護士作成の控訴趣意書の撤回が有効か、また、裁判所が撤回された控訴趣意書について判断を示さないことが違法となるか。
規範
弁護人が前任弁護士の提出した控訴趣意書について弁論せず、これを撤回する旨の意思表示をした場合、その撤回が被告人の意思に反しないと認められる限りにおいて有効となる。この場合、裁判所は撤回された控訴趣意書について判断を下す義務を負わない。
重要事実
被告人は当初選任した弁護士(工藤)により控訴趣意書を提出したが、その後別の弁護士(宮本)を選任し、前任者を解任した。後任弁護士は独自の控訴趣意書を提出し、公判において前任者の控訴趣意書については弁論しない旨陳述した。被告人はこの公判に出頭していたが、後任弁護士の陳述に対して何ら異議を述べなかった。原審は後任弁護士の趣意書のみについて判断を示した。
あてはめ
後任弁護士が前任者の控訴趣意書について弁論しない旨を明示したことは、実質的に控訴趣意書の撤回にあたる。被告人は公判に立ち会い、当該陳述を直接認識し得る状況にありながら何ら異議を述べていない。このような状況下では、弁護人による撤回は被告人の意思に反しないものと認められる。したがって、当該控訴趣意書は有効に撤回されたものといえ、裁判所の判断対象から外れることとなる。
結論
後任弁護士による撤回は有効であり、原審が前任者の控訴趣意書について判断しなかったことに違法はない。上告棄却。
実務上の射程
弁護人の訴訟行為の効力と被告人の意思の関係、および控訴審における裁判所の審判対象の確定に関する準則として機能する。被告人の黙示の同意(異議の欠如)を重視する点で、弁護権の行使と被告人の主体性の調和を図る際の指針となる。
事件番号: 昭和25(あ)384 / 裁判年月日: 昭和25年10月24日 / 結論: 棄却
原審に対して弁護人の控訴趣意書の外に被告人本人の控訴趣旨書が提出されたこと及原判決に被告人本人の上告趣意を記載した書面の添附なく、其他右上告趣意に対して特に判断した趣旨の記載のないことは所論の通りである。しかして原審公判調書によると被告人本人の上告趣意書については陳述されて居ないことがわかるので、原審がこれについて特に…
事件番号: 昭和25(あ)1047 / 裁判年月日: 昭和27年11月14日 / 結論: その他
国選弁護人選任の請求に対し、控訴審において控訴趣意書最終提出日五日前にこれを選任しても、同弁護人が控訴趣意書を提出し異議なく弁論した場合は、弁護権を制限したことにならない。