被告人が控訴裁判所に差し出した控訴趣意書を弁護人が撤回することは、刑事訴訟法上全然許されないものと解すべきではない。
控訴趣意書の撤回
刑訴法376条1項,刑訴法392条1項
判旨
控訴趣意書の撤回は法律上許容され、弁護人が被告人名義の控訴趣意書を撤回した場合において、被告人が公判廷で異議を述べずその意思に反すると認められないときは、当該撤回は適法有効である。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法上に明文規定のない「控訴趣意書の撤回」が認められるか。また、弁護人が被告人名義の控訴趣意書を撤回した場合、裁判所がその趣意について判断を省略することは適法か(刑訴法389条、392条等の関連)。
規範
刑事訴訟法に明文の規定はないものの、控訴趣意書の撤回は法律上許容される。弁護人が被告人名義の控訴趣意書を撤回した際、その撤回が被告人の意思に反するものと認められず、実質的に弁護人の趣意書と内容が重複するなど被告人の防御権を害しない状況にあるならば、当該撤回は有効であり、裁判所は撤回された趣意書について判断を要しない。
重要事実
被告人と弁護人がそれぞれ控訴趣意書を差し出した事案。原審第一回公判において、弁護人は「被告人名義の趣意書は自らの趣意書と結論において同趣旨である」として、被告人名義の趣意書を撤回した。被告人は同公判に同席し、事実取調べの際に直接陳述する機会を得ていたが、弁護人による撤回について異議を述べるなど、その撤回が自己の意思に反することを争った形跡は認められなかった。原判決は弁護人の趣意についてのみ判断し、被告人の趣意については判断せず控訴を棄却した。
あてはめ
まず、控訴趣意書の撤回は、明文規定がなくとも適法に行い得る。本件では、被告人名義の趣意書の内容は、弁護人が主張した控訴趣意の第二点と実質的に同趣旨であり、撤回によって被告人の実質的な主張が排斥されるわけではない。また、被告人は弁護人と共に公判廷に出頭し、発言の機会を与えられていながら撤回を争っておらず、撤回が被告人の意思に反するとは認められない。したがって、弁護人による撤回は有効であり、原審が被告人名義の趣意について判断しなかったことに違法はない。
結論
控訴趣意書の撤回は適法に成し得る。本件における撤回は有効であり、被告人の趣意について判断を示さず弁護人の趣意のみを判断した原判決に審理不尽や理由不備の違法はない。
実務上の射程
刑事手続における書面撤回の可否と、弁護人の代理権行使に対する被告人の黙認による有効性を認めた事例である。答案上は、明文のない手続的行為の可否や、弁護人と被告人の意思が不一致な場合の訴訟行為の効力を論ずる際の判断材料となる。特に被告人の面前での撤回に異議がない事実を「意思に反しない」評価の根拠とする手法が参考になる。
事件番号: 昭和25(あ)1797 / 裁判年月日: 昭和25年12月25日 / 結論: 棄却
原裁判所は弁護士工藤慎吉を弁護人に選任し、同弁護人が控訴趣意書を提出したこと、その後被告人は弁護士宮本九平を弁護人に選任したため原裁判所は工藤弁護人を解任したこと、宮本弁護人は別に控訴趣意を提出し原審公判において自己の控訴趣意書のみに基いて弁論し原審裁判所はその控訴趣意書についてのみ判断し工藤弁護人の控訴趣意書について…