弁護人が自己名義の控訴趣意書に基き弁論し「被告人名義の控訴趣意書は陳述しない」と述べた場合に、控訴審裁判所が、被告人名義の控訴趣意に対して判断をしなかつたことは違法ではない。
控訴趣意書の撤回
刑訴法376条1項,刑訴法389条,刑訴法392条1項
判旨
被告人が控訴趣意書を提出していても、公判において弁護人が自己名義の趣意書に基づき弁論し、被告人名義の趣意書を陳述しない旨を述べた場合には、裁判所が当該趣意書について判断を示さなくても違法ではない。
問題の所在(論点)
被告人本人が提出した控訴趣意書について、弁護人が公判で「陳述しない」と述べた場合に、裁判所がこれに回答せず判断を遺脱しても、憲法37条1項の防御権侵害や訴訟手続の違法(控訴趣意に対する判断遺脱)にならないか。
規範
憲法37条1項が保障する刑事被告人の弁護人依頼権および防御権の趣旨に照らし、弁護人が選任され、実質的な防御活動(控訴趣意書の提出および弁論)が行われている場合には、被告人本人の申立てと弁護人の訴訟活動が矛盾・重複する局面において、弁護人の訴訟遂行上の判断(陳述の選択)を尊重することが許容される。
重要事実
被告人の控訴審において、国選弁護人が選任され、弁護人は期限内に自己名義の控訴趣意書を提出して弁論を行った。その際、弁護人は公判において「被告人名義の控訴趣意書は陳述しない」旨を明示的に述べた。原審は、弁護人が陳述しないとした被告人本人の控訴趣意書については、判決において判断を示さなかった。
あてはめ
本件では、国選弁護人が期限内に控訴趣意書を提出し、これに基づき有効な弁論を行っていることから、被告人の防御権は不当に軽視されていない。また、公判において弁護人がプロフェッショナルな判断として被告人本人の趣意書を陳述しない旨を述べている以上、当該趣意書は審判の対象から除外されたものと解される。したがって、原審がこれに判断を加えなかったことに手続上の違法は認められない。
結論
原審が被告人名義の控訴趣意書について判断しなかったことに違法はなく、憲法37条1項にも違反しない。
実務上の射程
弁護人と被告人の訴訟行為が抵触する場合に、弁護人の訴訟代理権的性格に基づき、公判での陳述対象を絞り込むことの適法性を認めた。答案上は、弁護人の固有権と代理権の調整や、判決における判断遺脱の有無を論じる際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3473 / 裁判年月日: 昭和30年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が国選弁護人の選任請求をせず、自ら控訴趣意書を提出した場合には、提出期間経過後に国選弁護人が選任され、当該弁護人に趣意書提出の機会が与えられなかったとしても、憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:原審において、控訴趣意書の提出最終日が昭和29年8月20日と指定され、即日被告人に通知…