原審弁護人のみならず被告人も控訴趣意書を提出しているに拘わらず原判決は弁護人提出の控訴趣意書についてのみ判断を下しているにすぎないこと所論の通りであるが、被告人の控訴趣意の内容と原審弁護人の控訴趣意書の内容を比較検討してみると、右はいずれも第一審判決の量刑の不当を主張するものであり、被告人の控訴趣意書の内容は実質的には、原審弁護人の控訴趣意書の内容の一部として内包されていることが明らかであつて、原判決が右弁護人の控訴趣意書について判断し「這般の事情を看れば被告人は執行猶予の判決を受けながら何等改悛の情なく本件の犯行を為したものと認められるから原審が被告人に対し懲役二年の実刑を科したのは、寔に相当というべく」との結論を示している以上、実質的には被告人の控訴趣意書に対して判断がなされているものと見るを相当とする。
被告人の控訴趣意が判断を与えた弁護人の趣意と内容同一と認められる場合は被告人の右趣意についても判断を与えたといえるか
刑訴法392条1項
判旨
被告人が控訴趣意書を提出したにもかかわらず原判決がこれに言及せず、弁護人の趣意書のみを判断した場合であっても、両内容が実質的に重なり、後者の判断を通じて前者の主張も実質的に判断されていると認められるときは、判決に影響を及ぼすべき不尽はない。
問題の所在(論点)
被告人と弁護人の双方が控訴趣意書を提出した場合に、裁判所が一方の趣意書について明示的な判断を漏らすことが、刑事訴訟法上の判断不尽の違法(あるいは審理不尽)に該当するか。特に、両者の主張が実質的に同一である場合の処理が問題となる。
規範
控訴審において、原判決が特定の控訴趣意書(被告人本人提出分など)について明示的な判断を欠いている場合であっても、他の趣意書(弁護人提出分など)に対する判断の内容から、実質的に当該主張についても考慮・判断がなされていると認められる場合には、手続上の違法があるとはいえない。
重要事実
被告人と原審弁護人の双方が控訴趣意書を提出したが、原判決は弁護人提出の趣意書についてのみ言及し、判断を下した。被告人提出の趣意書と弁護人提出の趣意書は、いずれも第一審判決の量刑不当(刑の重すぎ)を主張するものであった。原判決は、被告人が執行猶予中に再犯した等の事情を挙げ、懲役二年の実刑が相当であるとの判断を示していた。
あてはめ
被告人の控訴趣意書は量刑不当を訴えるものであり、その内容は実質的に弁護人の控訴趣意書の一部として内包されている。原判決は、弁護人の主張に対し、被告人の改悛の情の欠如や前科等の諸事情を検討した上で、実刑判決が相当であるとの結論を導いている。このプロセスにおいて、被告人が主張した量刑上の有利な事情も実質的に評価の対象に含まれているといえる。したがって、形式上の言及を欠いていても、実質的な判断はなされていると解される。
結論
本件における原判決の判断不尽の主張は理由がない。また、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとも認められないため、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
控訴審における判断遺脱の主張に対する防御的規範として機能する。答案上は、被告人独自の主張が弁護人の主張に完全に包含されているか、あるいは弁護人の主張に対する判断から論理的に被告人の主張も排斥されているといえるかを確認し、「実質的判断の有無」の枠組みで論じる際に用いる。
事件番号: 昭和26(れ)915 / 裁判年月日: 昭和26年7月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告趣意が単なる量刑不当の主張に帰する場合、当時の刑事訴訟法応急措置法に基づき、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人A、B、およびCの弁護人がそれぞれ上告を申し立てたが、その上告趣意の内容を検討したところ、いずれも原判決の量刑が不当であるという主張に集約されるものであった。 第…