原審に対して弁護人の控訴趣意書の外に被告人本人の控訴趣旨書が提出されたこと及原判決に被告人本人の上告趣意を記載した書面の添附なく、其他右上告趣意に対して特に判断した趣旨の記載のないことは所論の通りである。しかして原審公判調書によると被告人本人の上告趣意書については陳述されて居ないことがわかるので、原審がこれについて特に判断を記さなかつたのはその為めであるかも知れない、しかし控訴趣意書が提出されてある以上、その陳述があると否とに拘わらずこれに対する判断をしなければならないこと勿論であるから原審の右措置は形式上一つの缺陥たるを免れない、しかし右被告人本人の控訴趣意書を読んで見るとその趣意は弁護人の控訴趣意書と同じく量刑不当の主張に過ぎないもので、内容も殆んど同様であり、原判決に書いてある様に「弁護人の所論に鑑み諸般の情状を考察」して判断すればおのずから被告人の控訴趣旨についても判断されたことになるのである。従つて実質的には被告人本人の控訴趣旨についても判断があつたことになり缺陥はなかつたものともいえる。それ故前記形式的缺陥の為め原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとすることはできない。
弁護人の控訴趣意と内容同一なる被告人の控訴趣意に対して判断しない場合と刑訴法第四一一条
刑訴法392条1項,刑訴法411条
判旨
被告人本人の控訴趣意書が陳述されていない場合でも、裁判所はこれに対する判断を示すべきであるが、その内容が弁護人の主張と実質的に同一であれば、弁護人の主張に対する判断をもって被告人の趣意についても判断があったものと解され、判決の破棄を要しない。
問題の所在(論点)
被告人本人の控訴趣意書が提出されながら公判で陳述されず、判決においても個別の判断が示されなかった場合、判決に影響を及ぼすべき重要な事項の判断遺脱として違憲または違法となるか。
規範
控訴趣意書が提出されている以上、公判における陳述の有無にかかわらず、裁判所はこれに対する判断を示さなければならない。しかし、判断の遺脱(形式的欠陥)があったとしても、実質的に判断がなされていると認められ、かつ、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められない場合には、上告理由とはならない。
重要事実
被告人の控訴に際し、弁護人の控訴趣意書のほかに、被告人本人名義の控訴趣意書が提出された。原審の公判調書によれば、本人名義の趣意書は陳述されておらず、原判決には同書面の添付や、それに対する個別の判断の記載もなかった。なお、本人名義の趣意書の内容は、弁護人の主張と同様に量刑不当を訴えるものであった。
あてはめ
原審が本人名義の趣意書に言及しなかった点は形式上の欠陥である。しかし、本人の主張は弁護人の量刑不当の主張と内容的に殆ど同様であった。原判決が「弁護人の所論に鑑み諸般の情状を考察」して判断を示した以上、本人の主張に対しても実質的に判断がなされたものと評価できる。したがって、この形式的欠陥を理由に原判決を破棄しなければ著しく正義に反する事態にはあたらない。
結論
被告人本人の控訴趣意について実質的な判断があったといえるため、原判決に憲法違反や判決に影響を及ぼすべき法理誤認はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟において、複数の控訴趣意書が提出された際に一部への個別回答が漏れた場合の救済基準を示す。実務上は、主張内容の同一性や重複性を検討し、「実質的判断の有無」と「正義に反するか(刑訴法411条)」の観点から、形式的な判断漏れが直ちに破棄事由にならないことを論じる際に引用できる。
事件番号: 昭和27(あ)2190 / 裁判年月日: 昭和27年10月16日 / 結論: 棄却
何等上告の趣意を記載していない上告趣意書(家庭の都合で上告した旨記載)は、適法な上告趣意書とは認めることができないから判断を与える必要がない。