一 被告人等の提出した控訴趣意書は、被告人等のこれに基く陳述の有無を問わず當然控訴審における訴訟資料となるものであるから、苟くも被告人等においてこれを特に撤回せざる限り、控訴審においてはこれらの控訴趣意書に對して判斷を下すべきものであると云わねばならぬ。 二 原判決に被告人等の控訴趣意書が添付されていなくてもその趣意書の内容が悉く辯護人の控訴趣意書の内容に包含されて居り、原判決が右辯護人の趣意書を添付しこれについて判斷を示している以上、實質的には被告人等の控訴趣意に對して判斷がなされているものと見るを相當とするから、かかる判決は、刑訴法第四一一條によりこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは認めることができない。
一 公判において陳述せられなかつた控訴趣意書に對する判斷の要否 二 辯護人の控訴趣意と内容と同一なる被告人の控訴趣意に對し特に判斷をしていない控訴判決と刑訴法第四一一條
刑訴法392條1項,刑訴法389條,刑訴法411條
判旨
被告人本人が提出した控訴趣意書は、撤回されない限り控訴審の訴訟資料となるため、裁判所はこれに判断を下すべきであるが、その内容が弁護人の控訴趣意書に内包されている場合は、形式的な判断の欠落があっても判決を破棄すべき正義に反する事由には当たらない。
問題の所在(論点)
被告人本人が提出した控訴趣意書に対し、控訴審判決が明示的な判断を欠いている場合、刑事訴訟法第389条及び第392条等の趣旨に照らし、判決に影響を及ぼすべき重大な違法(理由不備・判断遺脱)として破棄すべきか。
規範
被告人等が提出した控訴趣意書は、公判における陳述の有無にかかわらず、特段の撤回がない限り当然に控訴審の訴訟資料となるため、裁判所はこれに対して判断を下すべき義務を負う。もっとも、被告人本人の控訴趣意の内容が、弁護人の控訴趣意書の内容に実質的に包含されていると認められる場合には、被告人本人の趣意書に対する明示的な判断を欠いていても、実質的には判断がなされたものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和26(あ)921 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
原判決は、弁護人内藤三郎の控訴趣意につき判断しているだけで被告人控訴趣意書を特にとりあげていないこと判文上明らかである。それゆえ、原審の措置は形式上一つの欠陥たるを免れない。しかし、右被告人の控訴趣意書を読んでみると、その内容は弁護人の控訴趣意書と一致するのである。されば、弁護人の控訴趣意書に対して判断がなされている以…
重要事実
被告人及び相被告人は控訴趣意書を提出していたが、原判決の末尾には弁護人作成の控訴趣意書のみが添付され、被告人等作成のものは添付されていなかった。原審の公判調書には弁護人が趣意書に基づき弁論した旨の記載はあるが、被告人等による陳述や撤回の記載もなかった。そのため、被告人は、自ら提出した控訴趣意書について判決で判断が示されていないとして、判決に影響を及ぼすべき違法がある旨を主張して上告した。
あてはめ
本件において、形式的には被告人等の控訴趣意書が判決書に添付されず、個別の判断も示されていない。しかし、その内容を検討すると、悉く原審弁護人の控訴趣意書の内容の一部として内包されていることが明らかである。したがって、原判決が弁護人の控訴趣意書について判断を下している以上、実質的には被告人等の主張に対しても判断がなされているといえる。このような実質的な判断が存在する状況下では、形式的な不備があるとしても、刑訴法411条に基づき判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
被告人本人の控訴趣意書に対する判断遺脱があっても、弁護人の主張に内包されており実質的に判断されている場合は、著しく正義に反するものとは認められないため、上告を棄却すべきである。
実務上の射程
刑事訴訟における「判断遺脱」の救済範囲を限定した判例である。答案上は、被告人本人の申立てと弁護人の申立てが重畳する場合に、被告人の訴訟権利が実質的に保障されているかを論じる際の根拠として活用できる。特に刑訴法411条の「著しく正義に反する」かどうかの具体的事案における当てはめにおいて、形式的な瑕疵と実質的な不利益を区別する視点として有用である。
事件番号: 昭和25(あ)384 / 裁判年月日: 昭和25年10月24日 / 結論: 棄却
原審に対して弁護人の控訴趣意書の外に被告人本人の控訴趣旨書が提出されたこと及原判決に被告人本人の上告趣意を記載した書面の添附なく、其他右上告趣意に対して特に判断した趣旨の記載のないことは所論の通りである。しかして原審公判調書によると被告人本人の上告趣意書については陳述されて居ないことがわかるので、原審がこれについて特に…