原判決は、弁護人内藤三郎の控訴趣意につき判断しているだけで被告人控訴趣意書を特にとりあげていないこと判文上明らかである。それゆえ、原審の措置は形式上一つの欠陥たるを免れない。しかし、右被告人の控訴趣意書を読んでみると、その内容は弁護人の控訴趣意書と一致するのである。されば、弁護人の控訴趣意書に対して判断がなされている以上、被告人の控訴趣意書についても実質的には判断が下されているものと言えるのであるから、前記形式的欠陥があるからとて原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとすることはできない。そして、被告人の控訴趣意に対しても実質的に判断があつたものと見ることができる限り原判決は憲法第三二条に違反するという違憲論は前提を欠くもので問題とならない。(昭和二五年(あ)第一四四号七月六日第一小法廷判決、昭和二五年(あ)第二八六七号同二六年三月一六日第二小法廷判決参照)。
被告人の控訴趣意が判断を与えた弁護人の控訴趣意と内容同一なる場合は被告人の右趣意についても判断を与えたといえるか−−−憲法第三二条違反の主張
刑訴法389条,刑訴法392条1項,刑訴法411条,憲法32条
判旨
被告人が提出した控訴趣意書の内容が弁護人のそれと実質的に同一である場合、原判決が弁護人の趣意にのみ判断を示していても、実質的に被告人の趣意にも判断がなされたものと解され、判決に影響を及ぼす違法とはならない。
問題の所在(論点)
被告人が自ら提出した控訴趣意書に対し、控訴審判決が明示的な判断を遺脱した場合に、判決を破棄すべき事由となるか。
規範
控訴審裁判所は、法定期間内に提出された控訴趣意書に対し、その陳述の有無を問わず当然に判断を示すべき義務を負う。もっとも、被告人が提出した控訴趣意書に対する明示的な判断を欠く形式的な不備がある場合であっても、その内容が弁護人の提出した控訴趣意書と一致し、後者に対して判断が示されているときは、実質的に被告人の控訴趣意についても判断が下されていると解するのが相当である。したがって、かかる場合には、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するもの(刑事訴訟法411条)とは認められない。
重要事実
被告人と弁護人は、それぞれ法定期間内に控訴趣意書を提出した。原審の公判調書には弁護人が控訴趣意に基づき弁論した旨の記載はあるが、被告人の趣意書についての記載はなかった。原判決は末尾に弁護人の趣意書のみを添付し、その内容について判断を示した一方で、被告人の趣意書については特段の言及をしていなかった。なお、被告人と弁護人の趣意書はいずれも、第一審判決の事実誤認(強盗傷人ではなく窃盗未遂である点)および量刑不当を主張するもので、その内容は一致していた。
あてはめ
本件において、原判決が被告人の控訴趣意書を特に取り上げず、判文上も言及を欠いている点は、形式上の欠陥であるといえる。しかし、被告人の主張内容は、第一審の認定事実に対する異議および量刑不当を訴えるものであり、弁護人の主張内容と完全に一致している。原判決が弁護人の控訴趣意に対して判断を示している以上、被告人の主張についても実質的に検討が加えられたと評価できる。したがって、形式上の判断遺脱があるとしても、これを破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない。
結論
被告人の控訴趣意についても実質的な判断がなされたと認められるため、原判決に上告破棄事由となるような違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
裁判所の判断遺脱(刑事訴訟法392条1項違反)に関する救済の限度を示す。主張内容が重複する場合には、結論に影響しない形式的瑕疵として処理される。実務上、弁護人と被告人の主張が異なる場合には本法理の射程外となり、別途判断遺脱の違法を検討する必要がある。
事件番号: 昭和25(あ)2121 / 裁判年月日: 昭和26年3月27日 / 結論: 棄却
所論の点はいずれも、原審において控訴趣意として主張されなかつた事項であり、また刑訴第三九二条二項は同条項所定の事由に関し控訴審に職権調査の義務を課したものではないから、原判決はこれらの点についてなんら判断を示していないのである。従つてこのような事項につき、単純に原判決の法令違反を主張することはもちろん、これを判例違反と…
事件番号: 昭和26(れ)921 / 裁判年月日: 昭和26年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件判例は、上告趣意が単なる訴訟法違反の主張に留まり、刑訴法405条の上告理由に該当しない場合には、上告を棄却すべきであるとの判断を示したものである。 第1 事案の概要:上告人は、弁護人を通じて上告を申し立てたが、その上告趣意の内容は単なる訴訟法違反を主張するものであった。原審の判断や具体的な公訴…