請負人が受領する権利を有する請負代金を欺罔手段を用いて不当に早く受領したとしてその代金全額について刑法246条1項の詐欺罪が成立するには,欺罔手段を用いなかった場合に得られたであろう請負代金の支払とは社会通念上別個の支払に当たるといい得る程度の期間,支払時期を早めたものであることを要する。
請負人が欺罔手段を用いて請負代金を本来の支払時期より前に受領した場合と刑法246条1項の詐欺罪の成否
刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)246条1項
判旨
請負代金受領の支払時期を不当に早めたことをもって詐欺罪が成立するためには、欺罔手段を用いなかった場合に比して、社会通念上別個の支払といえる程度の期間、支払時期を早めたものであることを要する。本件のような定額請負契約において、代金減額請求権が発生しない場合には、単なる支払時期の早期化のみでは詐欺罪の成立は限定的に解される。
問題の所在(論点)
請負契約に基づき、将来的に全額を受領する正当な権利がある場合において、虚偽の書類を提出して検査を通過させ、代金の支払時期を早めた行為が詐欺罪(刑法246条1項)を構成するか。
規範
1. 財物交付を目的とする詐欺罪の成立には、欺罔行為と財物交付との間に因果関係を要する。 2. 本来受領権限がある代金の受領を欺罔により早めた場合に詐欺罪が成立するためには、欺罔を用いなかった場合に得られたであろう支払とは、社会通念上別個の支払に当たるといい得る程度の期間、支払時期を早めたものであることを要する。
重要事実
被告人らは、大阪府発注の定額・一括請負によるくい打ち工事の現場責任者等であった。工事で発生した汚泥の大部分を不法投棄したため、正規の処理券は見積量(約525立方メートル)に比して極少(約45立方メートル)であった。被告人らは、不法投棄の発覚による完成検査の留保や代金減額を恐れ、内容虚偽の処理券を提出して検査を合格させ、請負代金全額(7288万円)の支払を受けた。
あてはめ
1. 本件契約は定額・一括請負であり、汚泥処理費の内訳に特段の約定がない以上、不法投棄があったとしても発注者に代金減額請求権は発生しない。したがって、支払われた代金全額について不法領得の意思を認めることはできない。 2. 被告人の行為により支払時期が早まった可能性はあるが、一審・原審ともに「社会通念上別個の支払」といえるほどの期間(早期化の程度)を具体的に認定していない。また、本件のくい打ち工事自体は瑕疵なく完成しており、検査期間等の契約上の定めを考慮しても、支払時期が著しく早まったとは記録上明らかではない。
結論
被告人らの行為が、社会通念上別個の支払といえるほど支払時期を早めたものとは認められないため、現時点での事実関係に基づき直ちに詐欺罪の成立を認めることはできず、審理を差し戻すべきである。
実務上の射程
権利行使(代金請求)に際して欺罔を用いた事案の射程を画定する重要判例である。答案では、単に「嘘をついて金を得た」だけでなく、実体法上の権利の有無(減額請求権の存否)を確認した上で、時期の早期化が詐欺となるための「社会通念上別個の支払」という限定的な判断枠組みを明示する必要がある。
事件番号: 昭和27(あ)5037 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 破棄差戻
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