町の土木委員として町の土木予算を知る甲が、請負人乙の代理人として町と工事請負契約を締結するにあたり、甲乙間の内部関係において乙に右予算額よりはるかに低額で請負うことを承諾させた事実があるにかかわらず、町の係員には右事実を秘し、あたかも乙は町の予算額で請負うものの如く申し向けて契約を結び、公示完了により乙に代つて右代金を受領し、乙の承諾した代金との差額を領得したとしても、甲の右所為は町との関係において詐欺罪を構成するものとはいえない。
詐欺罪における騙取行為にあたらない事例
刑法246条
判旨
請負契約の代理人が、請負人が承諾した低額な請負額を注文主に秘匿し、予算額で契約を締結して代金を受領しても、特段の事情がない限り、注文主に対する詐欺罪は成立しない。
問題の所在(論点)
請負人の代理人が、請負人と合意した内部的な請負金額を注文主に秘匿し、より高額な予算額で契約を締結させ代金を受領する行為が、注文主に対する詐欺罪の欺罔行為に該当するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の欺罔行為とは、受領者が真実を知れば財物を交付しなかったであろう重要な事項について、真実に反する表示をすることをいう。不作為による欺罔が成立するには、当該事項を告知すべき法律上の義務があることを要するが、代理人が本人(請負人)と注文主との契約を媒介する場合、本人との内部関係における合意額を注文主に告知すべき法律上の義務は、特段の事情がない限り認められない。
重要事実
被告人は、請負人の代理人としてA町との間で工事請負契約を締結した。その際、請負人には町の予算額を知らせず、予算より低額で請け負うことを承諾させた。一方で、町に対してはその事実を伏せ、あたかも請負人が町の予算額(またはそれに近い金額)で承諾したかのように装って契約を締結した。工事完了後、被告人は町から契約額通りの代金を受領し、請負人が当初承諾した金額との差額を自己の利益とした。
あてはめ
町はできる限り工事費の低廉化を図るべき立場にあるが、被告人が請負人との内部関係で合意した低額な請負金額を町に告知すべき法律上の義務があるとする特段の事由は認められない。被告人が予算額の範囲内で町と有効な請負契約を締結した以上、受領した金員は当該契約に基づく正当な代金である。したがって、被告人が内部的な低額合意を秘匿したことは、町との関係において詐欺罪の構成要件たる欺罔行為には当たらない。
結論
被告人の所為は詐欺罪を構成せず、無罪である。
実務上の射程
契約の仲介者がいわゆる「ピンハネ」を行った事案において、詐欺罪の成否を判断する際の指標となる。契約自体が公序良俗に反するなど無効でない限り、注文主が契約額を納得して支払っている以上、仲介者が内部的な原価を正直に告知しなかったとしても、直ちに欺罔行為とはならないことを示唆している。
事件番号: 昭和27(あ)5037 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 破棄差戻
甲町収入役が同町工事請負人から同町の土木委員町会議員等の一部に対する慰労金として金員を受け取り補助員に保管させていた場合、被告人が同補助員に対して同町土木委員長乙及び同町町会議長丙等の諒解を得ていないのに拘らず得ている旨申し欺いて右金員の交付を受けたという事案において、乙、丙の諒解を得なければ右金員を引き出すことが出来…