代理人が権限外の行為をなすにつき相手方をしてその権限をあると誤信させて財物を騙取したときは、たとえ本人が代理人のなした行為について民法上の責任に人ずべき場合であつても、詐欺罪の成立を妨げない。
代理人の越権行為と詐欺罪の成立。
刑法246条1項,民法110条
判旨
代理人が権限外の行為をする際、相手方にその権限があると誤信させて財物を騙取した場合には、本人が民法上の表見代理責任等を負う余地があるとしても、詐欺罪の成立は妨げられない。
問題の所在(論点)
代理人が権限外の行為として財物を騙取した場合において、本人が民法上の責任(表見代理等)を負う可能性があることが、詐欺罪の成立を阻害するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の成否は、行為者が人を欺いて財物を交付させたか否かによって決せられる。たとえ民法上の代理関係や表見代理の規定等により、本人が当該行為につき民事上の責任を負うべき場合であったとしても、それは被害回復の可能性や法律関係の帰属に関する事後的な問題にすぎず、欺罔行為による財物交付という犯罪の成立自体を左右するものではない。
重要事実
被告人は、実際には与えられていない権限(代理権)があるかのように装い、相手方に対して代理人として振る舞った。被告人は相手方を誤信させ、その結果として相手方から財物を騙取した。弁護側は、本人が民事上の責任を負うべき事情があることをもって、詐欺罪の不成立を主張して上告した。
あてはめ
被告人が権限外の行為を行うに際し、相手方に権限があると誤信させた行為は、詐欺罪における「人を欺く」行為に該当する。これにより相手方が財物を交付した以上、詐欺罪の構成要件を充足する。民法上の表見代理等が成立し、本人が相手方に対して責任を負うとしても、それは被告人の欺罔行為によって相手方が財物を交付したという事実を否定するものではなく、違法な不法領得の実現を妨げる事由にはならない。
結論
本人が民法上の責任を負うべき場合であっても、被告人に詐欺罪が成立する。
実務上の射程
民事上の救済手段(表見代理による本人への請求等)の有無は、刑事上の詐欺罪の成否に影響しないことを明確にした判例である。答案上は、被害者に損害がない(民事的に補填される)との抗弁を排斥する際に、刑事罰の対象となる欺罔・交付行為の有無を重視すべき根拠として引用できる。
事件番号: 昭和28(あ)5252 / 裁判年月日: 昭和30年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪と恐喝罪は排斥関係にあるわけではなく、相手方を畏怖させた場合であっても、欺罔行為によって錯誤に陥らせ、その錯誤に基づいて財物を交付させたといえる場合には詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が行った特定の行為(第一審判決別表十四の事実)について、弁護人は、当該行為が相手方を畏怖させて財…