公共工事の請負者甲が,地方公共団体から使途を限定して甲名義の預金口座に振り込まれた前払金につき,上記使途に沿った下請業者乙に対する支払と偽って預金の払出しを請求し,その旨誤信した銀行係員をして,乙に無断で開設していた乙名義の預金口座に振込入金させた行為は,詐欺罪に当たる。
公共工事の請負者が,地方公共団体から使途を限定して請負者名義の預金口座に振り込まれた前払金につき,上記使途に沿った支払と偽って,払出しに係る金員を領得したことが詐欺罪に当たるとされた事例
刑法246条1項
判旨
公共工事の前払金専用口座にある金員は、適正な使途の確認を経て払い出されるまでは預金者が自由に処分できるものではない。そのため、使途を偽って払出しを受け、これを自己の運転資金に充てた行為は、銀行の預金管理権を侵害するものとして詐欺罪を構成する。
問題の所在(論点)
公共工事の前払金専用口座に振り込まれた金員を、使途を偽って払い出させた場合、自己名義の口座からの払出しであっても銀行に対する詐欺罪が成立するか。預金が被告人の「自己の財産」といえるかが問題となる。
規範
預金者が、預金口座の金員について契約上の制限等により自由に払い出すことができず、特定の使途に適合する場合に限り払出しを受けられる関係にある場合、当該金員は払い出されるまでは預金者の固有財産に帰属せず、自由に処分し得ない状態にある。この場合、銀行は預金の使途を審査し適正に管理する義務を負っている。したがって、真実の使途を秘して虚偽の払出請求を行い、銀行窓口係員を誤信させて金員を払い出させる行為は、銀行による預金管理権を侵害して金員を領得するものとして、詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。
重要事実
建設業者である被告人は、市から受注した下水道工事の前払金480万円を受領した。この前払金は、使途が当該工事の経費に限定され、保証事業会社及び銀行との契約に基づき、専用口座にて管理されていた。被告人は、銀行の確認を受けなければ預金を払い出せない仕組みの下、下請業者への支払いに充てると装って400万円の「前払金払出依頼書」を提出したが、真実はこれを自社の運転資金に流用する意図であった。被告人は銀行係員を誤信させ、無断で開設した下請業者名義の口座に400万円を振り込ませて領得した。
あてはめ
本件の前払金は、約款により工事経費以外への充当が禁じられ、銀行は保証事業会社との契約により使途を審査・管理する義務を負っていた。被告人は専用口座の預金を自由に払い出せず、適正な確認を経て初めて固有財産に帰属する関係にあったといえる(規範へのあてはめ)。それにもかかわらず、被告人は運転資金に充てる意図を秘して虚偽の請求を行い、銀行係員に「下請業者への適正な支払い」であると誤信させた。これは銀行の預金管理権という法的利益を侵害し、金員を領得したといえる。
結論
被告人の行為は銀行に対する詐欺罪(刑法246条1項)を構成し、有罪となる。
実務上の射程
自己名義の預金であっても、契約上の使途制限や銀行による管理義務がある場合には、欺罔による払出しが詐欺罪となり得ることを示した。特に「前払金保証制度」の下での公金管理の適正性を保護する実務上の意義が大きい。答案上は、不法領得の意思の対象となる「他人の財物」性の検討において、形式的な預金債権の帰属だけでなく、実質的な処分権限の有無を論ずる際に引用すべきである。
事件番号: 平成18(あ)2319 / 裁判年月日: 平成19年7月17日 / 結論: 棄却
預金通帳等を第三者に譲渡する意図であるのに,これを秘して銀行の行員に自己名義の預金口座の開設等を申し込み,預金通帳等の交付を受ける行為は,刑法246条1項の詐欺罪に当たる。