預金通帳等を第三者に譲渡する意図であるのに,これを秘して銀行の行員に自己名義の預金口座の開設等を申し込み,預金通帳等の交付を受ける行為は,刑法246条1項の詐欺罪に当たる。
預金通帳等を第三者に譲渡する意図を秘して銀行の行員に自己名義の預金口座の開設等を申し込み預金通帳等の交付を受ける行為は,刑法246条1項の詐欺罪に当たるか
刑法246条1項,金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律16条の2第1項,金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律16条の2第2項
判旨
預金通帳等を第三者に譲渡する意図を秘して口座開設を申し込む行為は、銀行の行員を誤信させる「人を欺く行為」にあたり、詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。
問題の所在(論点)
当初から第三者に譲渡する意図を秘して銀行に対し預金口座の開設及び通帳等の交付を申し込む行為が、詐欺罪(刑法246条1項)の「人を欺く行為」に該当するか。
規範
銀行の預金規定等により、通帳等の第三者譲渡が禁止されている場合、窓口で口座開設を申し込む行為自体が「本人が自ら利用する意思」を表明するものといえる。したがって、当初から第三者に譲渡する意図があるのにこれを秘して申込みを行うことは、詐欺罪の実行行為である「人を欺く行為」にあたり、その結果として交付を受けた場合には同罪が成立する。
重要事実
被告人は、第三者に譲渡する目的を隠し、友人らと共謀して銀行の複数支店に対し、自己名義の預金口座開設および通帳等の交付を申し込んだ。各銀行は、規定により通帳等の譲渡を禁止しており、もし当初から譲渡目的であることが分かれば交付に応じることはなかったが、行員らは譲渡の意図を秘した申込みを真実と誤信し、通帳およびキャッシュカードを交付した。
あてはめ
銀行の取引規定等において通帳等の第三者譲渡は禁止されている。このような状況下では、口座開設の申込みは「自ら利用する意思」の表明を包含しており、これが交付の判断の基礎となる重要な事項にあたる。被告人らは、当初から譲渡目的でありながらこの意思を秘して申込みを行っており、行員を誤信させている。この虚偽の意思表示は交付の判断を誤らせる「人を欺く行為」と評価でき、通帳等の占有移転との間に因果関係も認められる。
結論
被告人の行為は、預金通帳及びキャッシュカードを目的物とする詐欺罪(246条1項)の共謀共同正犯を構成する。
実務上の射程
本判決は、銀行業務における信義則上の確認事項が詐欺罪の「重要な事項」となり得ることを示した。実務上は、譲渡禁止規定の存在や、目的を告げれば銀行が交付しなかったであろうという「不交付の蓋然性」を具体的事実から摘示することが重要となる。特殊詐欺の道具屋等の処罰において極めて重要なリーディングケースである。
事件番号: 平成10(あ)488 / 裁判年月日: 平成15年3月12日 / 結論: 棄却
誤った振込みがあることを知った受取人が,その情を秘して預金の払戻しを請求し,その払戻しを受けた場合には,詐欺罪が成立する。