誤った振込みがあることを知った受取人が,その情を秘して預金の払戻しを請求し,その払戻しを受けた場合には,詐欺罪が成立する。
誤った振込みがあることを知った受取人がその情を秘して預金の払戻しを受けた場合と詐欺罪の成否
刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)246条1項,民法666条
判旨
誤振込みがあったことを知った受取人が、その旨を銀行に告知せずに預金の払戻しを請求する行為は、銀行に対する詐欺罪(刑法246条1項)を構成する。受取人は、銀行が組戻し等の適切な措置を講じられるよう、誤振込みの事実を告知すべき信義則上の義務を負う。
問題の所在(論点)
誤振込みがあったことを知った受取人が、銀行に対してその事実を秘匿したまま預金の払戻しを請求し現金の交付を受ける行為について、銀行に対する詐欺罪(刑法246条1項)が成立するか。受取人に誤振込みの事実を告知すべき義務(作為義務)が認められるかが問題となる。
規範
銀行にとって、払戻請求を受けた預金が誤振込みによるものか否かは、直ちに支払に応ずるか否かを決する上で重要な事柄である。受取人は、銀行との継続的な預金取引関係に基づき、誤振込みを知った場合には銀行にその旨を告知すべき信義則上の義務を負う。したがって、誤振込みを知りながらその情を秘して預金の払戻しを請求することは詐欺罪の欺罔行為に当たり、これに基づき現金等の交付を受けた場合には詐欺罪が成立する。
重要事実
集金事務代行業者が、振込送金先の指定ミスにより、本来の受取人ではない被告人の普通預金口座に約75万円を誤って振り込んだ。被告人は通帳の記載から入金予定のない誤振込みがあることを知ったが、これを自己の借金返済に充てようと考え、銀行窓口において係員に対し誤振込みの事実を告げずに88万円(誤振込分を含む)の払戻しを請求し、現金の交付を受けた。
あてはめ
銀行実務では、誤振込みの申出があれば組戻しや過誤照会等の措置が講じられ、これらは安全な決済制度維持や紛争防止のために必要不可欠な手続である。被告人は、実質的な権利がない誤振込金について、銀行との継続的な取引関係および社会生活上の条理に基づき、銀行が上記措置を講じられるよう告知すべき信義則上の義務を負っていたといえる。それにもかかわらず、被告人は誤振込みの事実を秘匿して払戻しを請求(不作為による欺罔)し、窓口係員を「正当な払戻請求である」との錯誤に陥らせて現金を交付させたものである。
結論
被告人の行為には詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。
実務上の射程
本判決は、受取人と銀行との間に預金債権が成立することを前提としつつ、不作為による詐欺の成立を認めたものである。答案上は、作為義務の根拠として「事務処理上の必要性(組戻し)」「信義則」「条理」を挙げることがポイントとなる。なお、ATMからの引き出しの場合は、対人関係がないため窃盗罪の成否が問題となる点に注意が必要である。
事件番号: 平成18(あ)2319 / 裁判年月日: 平成19年7月17日 / 結論: 棄却
預金通帳等を第三者に譲渡する意図であるのに,これを秘して銀行の行員に自己名義の預金口座の開設等を申し込み,預金通帳等の交付を受ける行為は,刑法246条1項の詐欺罪に当たる。