判旨
詐欺罪における欺罔の事実や犯意を認定するためには、証拠によって裏付けられた具体的な事実が必要であり、証拠に基づかずにこれらを認定することは許されない。
問題の所在(論点)
刑法246条1項の詐欺罪において、欺罔の意思および欺罔の事実の裏付けとなる間接事実(本件では運動費費消の意思の不存在や、立替払の事実の不存在)について、証拠に基づかない認定が許されるか。
規範
詐欺罪(刑法246条)の成立には、相手方を欺罔して錯誤に陥らせ、それに基づき財物を交付させたという客観的事実およびその犯意が必要である。裁判所がこれらの事実を認定するにあたっては、被告人の主観的意図(欺罔の意思)や、前提となる客観的事実(立替払いの存否等)について、証拠に基づかなければならない。
重要事実
被告人は、小麦粉の不当販売で取調を受けていたAから、警察官への運動を依頼された。第1の事実として、被告人は運動費を費消する意思がないのに運動費が必要であると装い2万円を騙取し、第2乃至第4の事実として、実際には立替えていない運動費を立替えたと称して計5万円を騙取したとして起訴された。原審は複数の供述証拠を総合してこれらを認定したが、被告人の供述や証人の証言、検事聴取書の内容を精査しても、それらから直ちに欺罔の意思や立替の事実がなかったことを推認できる証拠は存在しなかった。
あてはめ
第1の事実に関し、原審が挙げた証拠には被告人が金員を受領した旨の記載はあるが、受領時に被告人が「運動費を費消する意思を欠いていた」という欺罔の犯意を推断させるに足りる記載は存在しない。また、第2乃至第4の事実についても、被告人が「真実運動費を立替えて支払った事実がなかった」ことを推認し得る証拠は存しない。したがって、原審の認定は、証拠によらずに詐欺罪の構成要件要素となる重要な事実を認定したものであり、採証法則に反する違法があるといえる。
結論
証拠に基づかずに詐欺の犯意や欺罔事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすべき違法があるため、これを破棄し、広島高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
詐欺罪の立証において「最初から騙すつもりであったか(内心的意思)」の立証が困難な場合でも、これを推認させるための間接事実について厳格な証拠調べと事実認定を求める実務上の指針となる。答案上は、詐欺罪の主観的態様の検討において、客観的な証拠からいかなる経験則に基づき犯意を推認すべきかを示す際の根拠として機能する。
事件番号: 昭和25(れ)1347 / 裁判年月日: 昭和25年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定の当否は、原則として事実審裁判所の裁量に属する事項であり、経験則に反する等の違法が認められない限り、上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人が詐欺の罪に問われた事案において、原判決(二審)が証拠に基づき詐欺の事実を認定したことに対し、弁護人がその事実認定に不服があるとして上告を申し…