被告人が欺罔手段を弄し、選挙管理委員会をして、選挙権者に、特別投票用紙および特別投票者証明書を郵送させたという事案において、右選挙権者がその特別投票用紙等を受け取る権利のある者であるか否か、或いは被告人が右選挙権者にその権利ありと信じていたか否かを審理しないで、たんに手段に欺罔行為があつたという一事(被告人が選挙管理委員会に対し、何等予め当該選挙人の承認を得たものでないことを十分知つていながら、勝手に選挙人の名義を用いて、本人よりの請求の如く装い、特別投票用紙等の請求手続をしたことが認め得られるという一事)をもつて、ただちに被告人の詐欺の犯意を認定し得るとすることは、審理不尽、理由不備の違法があつて刑訴第四一一条第一号にあたる。
刑訴第四一一条一号にあたる一事例 ―詐欺の犯意の認定の審理不尽、理由不備の違法―
刑訴法411条1号,刑法246条1項,地方自治法(昭和25年4月法律101号による改正前)34条1項3号,同施行令(昭和25年5月政令113号による改正前)36条1項,同施行令(昭和25年5月政令113号による改正前)37条1項3号,公職選挙法49条,公職選挙法施行令52条
判旨
選挙人の名義を冒用して特別投票用紙を請求した場合であっても、受取人が適法な受領権限を有する者であり、かつ被告人に不法領得の意思や犯意が認められないときは、詐欺罪は成立しない。
問題の所在(論点)
他人の名義を冒用して財物を第三者に送付させた場合において、当該第三者が正当な受領権限者であるときに、詐欺罪の成否およびその犯意をいかに判断すべきか。
規範
詐欺罪(刑法246条)が成立するためには、欺罔行為によって他人の財物を領得する意思(不法領得の意思)が必要である。また、客体となる財物の交付について、受取人が正当な受領権限を有する者である場合には、欺罔手段を用いたとしても直ちに同罪は成立せず、被告人の主観において当該受領権限の有無をどう認識していたかが犯意の有無を左右する。
重要事実
被告人は、選挙権者4名の承認をあらかじめ得ることなく、当該選挙人の名義を勝手に用いて、本人からの請求であるかのように装い、特別投票用紙等を直接郵送させた。しかし、当該4名は、本来であれば投票所へ行くことができない病状にあり、当該投票用紙を受け取る権利を有する者であった。原審は、被告人が名義冒用の事実を認識していたことのみを理由に、詐欺の犯意を認めて有罪とした。
あてはめ
被告人は、投票用紙等を自己の占有に置くのではなく、選挙権者本人らに直接郵送させているため、自己に領得する意思がないことは明白である。さらに、投票用紙の受取人である選挙権者らが病気等の事情により当該用紙を受け取る正当な権利を有していたのであれば、名義を装うという欺罔行為があったとしても、それだけで詐欺罪が成立するとはいえない。また、被告人がこれら選挙権者に正当な権利があると信じていた場合には、詐欺の犯意も欠けることになる。したがって、これらの重要事項を審理せずに有罪とした原判決には審理不尽・理由不備の違法がある。
結論
被告人の行為が詐欺罪を構成するか否かを決すべき重要な事項について審理を尽くしておらず、直ちに詐欺罪の成立を認めることはできないため、原判決を破棄し差戻すべきである。
実務上の射程
詐欺罪における不法領得の意思の要否、および受領権限のある者に対する交付が「損害」や「領得」に該当するかという文脈で活用できる。特に、形式的な欺罔行為があっても、実質的な受領権限者が利益を得ている場合の可罰性を否定する方向で機能する判例である。
事件番号: 昭和27(あ)5037 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 破棄差戻
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