懲役刑のみを科する場合には、所論関税法七六条一項本文だけを適用すべく、同条項但書を適用する余地がなく、従つて、同但書所定の原価を確定する必要がないから、原判決には、所論のごとき理由不備又は審理不尽の違法がない。 註。所論は原価若しくは価値を確定しない違法があるとするもの。
関税法(昭和二三年法律第一〇七号による改正後のもの)第七六条第一項違反罪の判示方
刑訴法335条,関税法(昭和23年法律第107号による改正後のもの)76条1項
判旨
関税法違反の密輸出罪において、懲役刑のみを科す場合には、同法所定の罰金併科基準となる物品の原価を確定する必要はない。また、密輸出の実行の着手は、輸出の意図をもって貨物を船舶に積載した段階で認められる。
問題の所在(論点)
1. 関税法違反の密輸出罪において、懲役刑のみを科す場合でも罰金併科のための「物品原価」を確定する必要があるか。2. 密輸出罪の実行の着手時期について、船舶への貨物積載のみで認められるか。
規範
関税法(昭和29年当時)の輸出罪の成立について、特定の輸出意図をもって貨物を船舶に積載した事実が認められれば、出航に至らずとも実行の着手を肯定し得る。また、懲役刑のみを選択する場合には、罰金刑の算定基礎となる物品原価の確定は不要である。
重要事実
被告人らは、特定の意図(判決文からは詳細不明、文脈上は密輸出の意図)をもって、a港において貨物を船舶「B丸」に積載した。しかし、当該船舶がb地区に回航すべく仕向けられた事実や、実際にa港を出航した事実は認定されていなかった。第一審および控訴審は、積載の事実のみをもって有罪と認定し、懲役刑を科した。これに対し、被告人側は物品原価の不確定や出航前の段階での処罰を不当として上告した。
あてはめ
1. 関税法76条1項(当時)の規定上、懲役刑のみを科す場合には同項但書(罰金併科に関する規定)を適用する余地がない。したがって、罰金刑の基礎となる原価の確定は判決の必須要素ではない。2. 判示のa港において、輸出の意図をもって貨物を船舶に積載したことが認定されている以上、その後の回航や出航の事実は犯罪成立を左右する不可欠な要素ではなく、積載段階で犯罪の実行に踏み出したものと解される。
結論
懲役刑のみを科す場合は物品原価を確定する必要はなく、輸出の意図をもって貨物を船舶に積載した時点で実行の着手が認められる。本件上告は棄却された。
実務上の射程
密輸出の実行の着手時期について、「積載」をもって認めた事例として重要である。また、刑罰の選択において罰金刑を課さない場合の事実認定の範囲を限定しており、実務上の審理の効率化を示唆する内容となっている。
事件番号: 昭和26(あ)1766 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】関税法所定の「輸出」行為の既遂時期について、海上においては、目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載した時点で完成する。 第1 事案の概要:上告人らは、関税法違反の罪に問われた。争点となったのは、海上における輸出行為がどの段階で完成(既遂)したとみなされるかという点であった。上告人らは、単な…