一 所論は原審において主張判断を経ない事項であるから、上告適法の理由とならない。 二 (所論の要旨)原判決の支持する第一審判決によれば「関税法第八三条第一項により主文第二項記載の物件を没収する」と摘示しており、右物件中にはAが包含せられている。これによつてこれを見れば、右法条中犯人の占有に係るものとして、右船舶を没収したものと解せられる、若し本件船舶が同法条にあたるものとせば、同法条は憲法第一三条、第二九条に違反し無効なりといわざるを得ない。蓋し右Aは、B株式会社の所有品であつて、訴外甲等が賃借し、更に同人等より被告人等が転借占有していたもので、被告人等において密輸入に使用するの企図を以て占有していたとしても、所有者たるB株式会社はかかる企図につきては、何等知ることなきは勿論何等関知せざりしものである。単に賃貸借契約せるのみで、その転借人の行為により、船舶が没収せらるるとせば、会社は何等の故意過失なくして没収されることとなるからである。 三 旧関税法第八三条第一項(昭和二三年法律第一〇七号により改正された明治三二年法律第六一号)は、犯人以外の第三者の所有に属する同条所定の貨物または船舶でも、それが犯人の占有に係るものであれば、右所有者の善意、悪意に関係なく、すべて無条件に没収すべき旨を定めたものではなく、右所有者たる第三者が貨物について同条所定の犯罪行為が行われることまたは船舶が同条所定の犯罪行為の用に供せられることをあらかじめ知つており、その犯罪が行われた時から引きつづき右貨物または船舶を所有していた場合にその貨物または船舶を没収できる趣旨に解すべきであつて、憲法第二九条に違反しない。
一 控訴審において主張判断のない事項を上告理由とすることの適否。 二 旧関税法第八三条第一項の法意と憲法第二九条。
旧関税法(明治32年法律61号−昭和23年法律107号により改正されたもの)83条,旧関税法(明治32年法律61号−昭和23年法律107号により改正されたもの)76条,旧関税法(明治32年法律61号−昭和23年法律107号により改正のもの)83条1項,関税法(昭和29年法律61号)118条,関税法(昭和29年法律61号)118条1項,憲法13条,憲法29条,刑訴法405条,刑訴法414条,刑訴法392条
判旨
第三者の所有物を没収する場合において、その所有者に犯罪の予見(悪意)がないにもかかわらず没収することは、憲法29条の財産権保障に違反し許されない。
問題の所在(論点)
第三者の所有に属する物件について、所有者の善意・悪意を問わずに没収を規定する条文(旧関税法83条1項)の解釈と、憲法29条(財産権)との適合性が問題となる。
規範
没収は、犯人以外の第三者の所有物についてもなされ得るが、その趣旨・目的に照らし、必要最小限度にとどめるべきである。したがって、第三者の所有物を没収し得るのは、当該第三者が、犯罪行為が行われること又は物件が犯罪に供されることをあらかじめ知っており(悪意)、かつ犯罪時から引き続き当該物件を所有している場合に限られる。
重要事実
被告人らは、関税法違反(密輸出)の犯罪行為に供した船舶Aを用いて犯行に及んだ。第一審及び原審は、関税法83条1項(当時)に基づき、当該船舶Aを没収する旨を言い渡した。しかし、記録上、船舶Aは第三者であるB株式会社の所有に属することが示唆されていた。それにもかかわらず、下級審判決は、所有者であるB社が犯罪の事実をあらかじめ知っていたか否か(知情の有無)を確定しないまま、没収を認めた。
あてはめ
旧関税法83条1項の文理上は、犯人の占有に係るものであれば第三者の所有物も無条件に没収できるかのように読める。しかし、善意の第三者の財産権を剥奪することは、没収の必要性を逸脱し憲法29条に違反する。本件において、船舶Aが第三者B社の所有であるならば、B社が本件犯罪行為をあらかじめ知っていたという「知情の事実」が没収の前提要件となる。原判決はこの事実を確定せずに没収を維持しており、審理不尽または法解釈の誤りがある。
結論
第三者所有物の没収には、当該第三者の悪意(知情)が必要である。知情の有無を確定せずに没収を言い渡した原判決は違憲の疑いがある解釈に基づくものであり、破棄を免れない。
実務上の射程
憲法29条(財産権)を根拠に、刑罰の付随的処分である没収の対象範囲を限定した重要判例である。答案上は、没収の要件(刑法19条2項等)の解釈において、第三者の権利保護の観点から「知情」や「適正手続(憲法31条)」と組み合わせて論じる際の基礎となる。なお、後の最高裁大判昭37.11.28により、第三者への告知・弁解の機会付与(適正手続)も憲法上要求されることとなった点に留意する。
事件番号: 昭和26(あ)3808 / 裁判年月日: 昭和33年1月14日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】第三者所有の物件を没収する場合、当該第三者が犯罪行為への供用をあらかじめ知っていた(知情)ことが必要であり、これを欠く没収は関税法および憲法29条の趣旨に反する。 第1 事案の概要:被告人は共犯者と共に、貨物を不法に密輸出した。この犯罪行為に供された船舶Aは、被告人ら以外の第三者の所有に属すること…