判旨
麻薬の譲渡罪における「譲渡」とは、有償・無償を問わず、また販売の依頼に伴う見本の交付であっても、物の占有を移転させる行為を広く包含する。
問題の所在(論点)
麻薬の販売を依頼する際に見本として麻薬を交付する行為が、麻薬取締法上の「譲渡」に該当するか。
規範
麻薬取締法における麻薬の「譲渡」とは、所有権の移転を伴う売買に限られず、広く他人に麻薬を交付してその占有を移転させる行為を指すと解される。販売の委託やその準備行為としての交付であっても、その実態が譲渡にあたる以上、同罪の構成要件を充足する。
重要事実
被告人Aは、被告人Bに対して麻薬の販売を依頼した。その際、販売のための見本として、燐酸コデイン末約0.5gをBに対して手渡した。弁護人は、この行為は単なる交付に過ぎず「譲渡」には当たらないと主張して争った。
あてはめ
本件において、被告人Aは被告人Bに対し、将来的な販売を目的とした依頼の過程で見本としての麻薬を手渡している。この行為は、単に麻薬を物理的に提示したにとどまらず、受領者であるBに対して麻薬の事実上の支配(占有)を移転させるものである。したがって、販売の依頼という目的に付随するものであっても、客観的には譲渡行為そのものといえる。
結論
販売の依頼に伴う見本の交付であっても、麻薬の譲渡にあたる。したがって、被告人Aに譲渡罪の成立を認めた原判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、薬物犯罪における「譲渡」の概念が、売買のような典型的な権利移転のみならず、見本の交付を含む広範な占有移転を包含することを確認している。答案作成上は、譲渡の定義を広く解し、授受の態様がいかなる名目であっても、占有の移転があれば「譲渡」に該当すると論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和26(あ)3634 / 裁判年月日: 昭和27年4月17日 / 結論: 棄却
原判決は被告人Aが麻薬をBに売却方に依頼して交付した事実を認定しているのであるが、原判決の挙げている証拠によればその事実は、麻薬取締法三条にいわゆる麻薬を譲り渡したものに該当するのであるから、同四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
事件番号: 昭和26(あ)185 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 破棄自判
旧麻薬取締規則第二三条にいわゆる授受とは、贈与、消費貸借等所有権の移転を伴う場合に限らず、販売の委任等相手方に麻薬の処分権を与えてこれを交付するがごとき行為を含む。