原判決は被告人Aが麻薬をBに売却方に依頼して交付した事実を認定しているのであるが、原判決の挙げている証拠によればその事実は、麻薬取締法三条にいわゆる麻薬を譲り渡したものに該当するのであるから、同四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
麻薬取締法第三条にいわゆる麻薬の譲渡にあたる一事例
麻薬取締法3条
判旨
麻薬取締法(現・麻薬及び向精神薬取締法)における麻薬の「譲渡し」とは、有償・無償を問わず、麻薬の占有を他人に移転させる行為を広く含むと解される。
問題の所在(論点)
麻薬取締法において、対価の授受の有無が明確でない「交付」という事実が、同法3条の「譲り渡し」に該当するか。
規範
麻薬取締法(旧法3条)に規定される麻薬の「譲り渡し」とは、特定の対価の有無にかかわらず、麻薬の所持(占有)を他人に移転させる行為を指すものと解すべきである。
重要事実
被告人Aは、麻薬をBに対して交付した。原判決はこの「交付」の事実を認定しており、弁護人もその事実自体は争っていなかった。しかし、被告人側はこれが同法にいう「譲り渡し」に該当するか、あるいは憲法違反や量刑不当にあたらないかを主張して上告した。
あてはめ
原判決が挙げた証拠によれば、被告人AがBに対して麻薬を交付した事実は明らかである。麻薬取締法の目的は麻薬の拡散防止にあるため、有償の売買に限らず、占有を他人に移転させる「交付」行為は、同法が規制対象とする「譲り渡し」の概念に包含されると解される。したがって、本件の交付事実は「譲り渡し」に該当すると認められる。
結論
被告人が麻薬を交付した事実は、麻薬取締法にいう「譲り渡し」に該当し、有罪とした原判決に誤りはない。
実務上の射程
本判決は、麻薬取締法における「譲渡し」の概念を広く解釈し、単なる交付行為もこれに含まれることを示したものである。司法試験においては、譲渡しの定義として「有償無償を問わず占有を移転すること」と論述する際の根拠となる。
事件番号: 昭和27(あ)3637 / 裁判年月日: 昭和28年10月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】麻薬の譲渡罪における「譲渡」とは、有償・無償を問わず、また販売の依頼に伴う見本の交付であっても、物の占有を移転させる行為を広く包含する。 第1 事案の概要:被告人Aは、被告人Bに対して麻薬の販売を依頼した。その際、販売のための見本として、燐酸コデイン末約0.5gをBに対して手渡した。弁護人は、この…
事件番号: 昭和28(あ)2803 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
一 旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第三条にいう「譲り渡し」とは、所有権の移転を目的とする麻薬の授受の場合に限られない。 二 塩酸モルヒネ末を所持する者が、これを他人に交付して注射液の製剤を依頼し、その後注射液として引渡を受けて所持する場合は、塩酸モルヒネ末の所持罪と注射液の所持罪との二罪が成立し併合罪となる。…