判旨
麻薬の売却を依頼して他人に交付する行為は、麻薬取締法にいう「譲渡」に該当する。
問題の所在(論点)
麻薬の売却を目的として他人に麻薬を交付する行為が、麻薬取締法に規定される麻薬の「譲渡」に該当するか。
規範
麻薬取締法(現:麻薬及び向精神薬取締法)における麻薬の「譲渡」とは、有償・無償を問わず、また、自ら直接販売するか否かを問わず、他人に麻薬の占有を移転させる行為を広く含むと解される。
重要事実
被告人Bは、麻薬の売却を他人に依頼し、その売却のために麻薬を当該他人に交付した。弁護人は、このような売却の依頼に伴う交付が、同法にいう「譲渡」には当たらないと主張して上告した。
あてはめ
麻薬取締法の目的は麻薬の流通を厳格に規制することにある。本件において、被告人Bが他人に売却を依頼して麻薬を交付した行為は、麻薬の占有を他者に移転させるものである。かかる行為は、売却の委託という形式をとっているとしても、麻薬の所持を他者に移転させ、新たな流通の契機を作るものであるから、同法3条(当時)にいう「譲渡」の概念に包含されると解するのが相当である。
結論
麻薬の売却方を依頼して他人に交付することは、麻薬取締法上の「譲渡」にあたる。
実務上の射程
薬物事犯における「譲渡」概念の広範性を認めた初期の判例である。売買契約に基づく移転に限らず、委託販売のための交付であっても「譲渡」に含まれるため、実務上、薬物の占有移転を伴う態様は広く譲渡罪の構成要件に該当するものとして取り扱われる。
事件番号: 昭和27(あ)5925 / 裁判年月日: 昭和29年12月21日 / 結論: 棄却
旧麻薬取締法三条一項にいう譲渡は、同法が麻薬に関するあらゆる行為を取締の対象とすることによつて公衆衛生の保持を図つた趣旨から見て、麻薬の移転に関する行為は所有機の移転を伴うものに限らず、広く譲渡の観念中に包含せしめたものと解するのを相当とするのである(昭和二六年(あ)三六三四号同二七年四月一七日第一小法廷判決、刑集六巻…
事件番号: 昭和26(あ)3634 / 裁判年月日: 昭和27年4月17日 / 結論: 棄却
原判決は被告人Aが麻薬をBに売却方に依頼して交付した事実を認定しているのであるが、原判決の挙げている証拠によればその事実は、麻薬取締法三条にいわゆる麻薬を譲り渡したものに該当するのであるから、同四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。