原審は第一回公判で検察官の申請による証人Aの尋問申請を採用し、同第三回公判で同証人を尋問し、しかもその供述を事実認定の資料に供したこと、並びに右証人尋問が行われた公判には被告人が出頭しておらず、且つその後においても特に被告人に対し右証人の供述内容を知らせる手続を執らなかつたことは所論のとおりである。しかしながら本件では被告人に対し前記第三回公判期日の告知は、適法になされ、且つ被告人の弁護人は同公判期日に出頭し、右証人に対し尋問していることは記録上明らかであつて、原審が被告人の反対尋問権の行使を妨げた形跡は記録上認められないのであるから原審の訴訟手続に所論の違法はない。
控訴審における検察官申請による証人尋問に被告人が立ち会わなかつたことと憲法第三七条第二項
憲法37条2項,刑訴法393条
判旨
被告人が公判期日の告知を受けながら出頭せず、かつ弁護人が出頭して証人を尋問している場合には、被告人不在のまま証人尋問が行われても反対尋問権の侵害にはあたらない。また、その後に証人の供述内容を被告人に知らせる手続を執らなくても、訴訟手続に違法はない。
問題の所在(論点)
被告人が欠席した公判期日において弁護人の立ち会いのもとで行われた証人尋問に関し、被告人に供述内容を告知する等の手続を執らなかったことが、被告人の反対尋問権を侵害し、訴訟手続の違法(刑訴法405条、411条等)を構成するか。
規範
憲法37条2項前段および刑事訴訟法の定める証人尋問権(反対尋問権)の保障は、被告人に対して証人と対面し尋問する機会を法律上与えることを意味する。したがって、適法な期日告知により尋問の機会が提供され、かつ弁護人が出頭して実際に尋問を行っている場合には、被告人が自らの意思で欠席したとしても、反対尋問権の行使を妨げたことにはならず、手続は適法である。
重要事実
第一審(原審)において、検察官申請の証人Aの尋問が行われたが、当該公判期日に被告人は出頭していなかった。被告人に対しては当該期日の告知が適法になされており、公判には被告人の弁護人が出頭して証人Aに対する尋問を行った。その後、裁判所は被告人に対し、当該証人の供述内容を改めて知らせる等の措置を執ることなく、その供述を事実認定の資料とした。
あてはめ
本件では、被告人に対し証人尋問が行われる公判期日の告知が適法になされていた。これは被告人に対し、証人と対面し尋問する機会が法的に保障されていたことを意味する。さらに、被告人本人は欠席したものの、その弁護人が公判に出頭して証人に対し実際に尋問を行っている。この事実に照らせば、裁判所が被告人の反対尋問権の行使を妨げた形跡は認められない。したがって、尋問後に供述内容を別途通知する手続を欠いたとしても、適正な手続保障に反するものではないと評価される。
結論
被告人が適法な告知を受けながら欠席し、弁護人が出頭して尋問を行った以上、反対尋問権の侵害はなく、原審の訴訟手続に違法はない。
実務上の射程
被告人の公判出席権と反対尋問権の限界を示す判例である。被告人が権利を放棄、あるいは自らの帰責事由により行使しなかった場合でも、弁護人による尋問が行われていれば手続的保障として十分であるとする実務上の準則を提示している。公判期日の「適法な告知」が前提となる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和25(あ)1337 / 裁判年月日: 昭和26年7月24日 / 結論: 棄却
昭和二四年七月二五日になされた墨田簡易裁判所の公判期日と同一日附の上申書を以て、被告人は右裁判所の被告人に対する弁護人を必要とするかどうかについての書面による問合せ対し弁護人を必要とない旨を申立てている。そして、公判期日においては弁護人をなくして公判が開廷され、その公判において、被告人は弁護人の選任について何等の申出を…