裁判所が、当事者の請求により証拠調をする旨の決定をしたのち、当事者が公判廷で右請求を撤回した場合には、右決定を取り消す必要はなく、また検察官および被告人または弁護人の意見を聴く必要もない。
証拠調請求の撤回と取消決定および当事者の意見聴取の要否
刑訴法297条,刑訴法298条,刑訴規則190条
判旨
検察官が証人尋問請求を撤回した場合、裁判所は当初から請求がなかったものとして扱うことができ、証拠決定の取消手続や当事者の意見聴取は不要である。
問題の所在(論点)
検察官が一度採用された証人尋問請求を撤回した場合において、裁判所が改めて取消決定を行わず、かつ被告人側の意見を聴取せずに手続を進めることは、刑事訴訟法上の手続として適法か。
規範
当事者が行った証拠請求を後に自ら撤回した場合、当該請求は当初からなされなかったものと同一の状態に帰する。したがって、裁判所が既に採用決定をしていたとしても、これを改めて取り消す決定を行う必要はなく、また、職権で尋問を行う場合や相手方が新たに請求を行う場合を除き、撤回に際して当事者の意見を聴取する義務も負わない。
重要事実
第一審裁判所は、第一回公判期日において検察官の請求に基づき証人Aを尋問する旨の決定を行った。しかし、証人Aは呼出しを受けたものの第二回公判期日に出頭しなかったため、検察官は同期日において当該証人尋問の請求を撤回した。裁判所は、被告人及び弁護人の意見を聴取することなく、そのまま手続を進めた。
あてはめ
本件では、検察官が自ら証人尋問の請求を撤回している。この撤回により、法的には当初から請求がなされなかったのと同一の状況が生じるため、裁判所が既になした採用決定を明示的に取り消す手続は不要である。また、裁判所が職権で当該証人を尋問すると決定する場合や、被告人側が新たに当該証人の尋問を請求する場合であれば意見聴取の必要が生じ得るが、本件ではそのような事情は認められない。したがって、被告人・弁護人の意見を聴くことなく手続を進めたとしても、訴訟手続上の違法はないと解される。
結論
検察官による請求撤回によって証拠請求は当初からなかったものとみなされるため、裁判所が意見聴取等の手続を経ずに進めたことに違法はない。
実務上の射程
証拠調べの開始前(または実施不能時)における当事者の証拠請求の撤回の効力を示したものである。裁判所による職権での取消しとは異なり、当事者主義的観点から撤回の自由を認め、手続の簡素化を肯定する射程を有する。
事件番号: 昭和25(れ)870 / 裁判年月日: 昭和26年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が一度採用を決定した証人であっても、その後に取調べの必要がなくなったと判断した場合には、当該決定を取り消して証人尋問を行わずに結審しても審理不尽の違法はない。 第1 事案の概要:被告人の刑事事件において、原審(控訴審)は弁護人の請求に基づき証人AおよびBの喚問を一度は決定した。しかし、その後…