判旨
裁判所が一度採用を決定した証人であっても、その後に取調べの必要がなくなったと判断した場合には、当該決定を取り消して証人尋問を行わずに結審しても審理不尽の違法はない。
問題の所在(論点)
裁判所が一度証人として採用決定した証拠について、取調べを行わずに決定を取り消して結審することが、審理不尽として違法となるか。裁判所の証拠調べに関する裁量の範囲が問題となる。
規範
証拠調べの範囲および限度は、事実審裁判所の自由裁量に委ねられている。したがって、一度採用を決定した証人であっても、その後の訴訟経過に照らして取調べの必要がなくなったと認められる場合には、裁判所は当該証拠決定を取り消すことができる。
重要事実
被告人の刑事事件において、原審(控訴審)は弁護人の請求に基づき証人AおよびBの喚問を一度は決定した。しかし、その後、第12回公判において原審は右証拠決定を取り消し、証人尋問を行わないまま却下した。弁護人は、証拠決定を取り消して尋問を行わなかったことは審理不尽の違法であると主張して上告した。
あてはめ
証拠調べの要否は裁判所の広範な裁量に属する事項である。本件において、原審は一度は証人A・Bの採用を決定したが、その後の公判の進展等により取調べの必要がなくなったと判断してこれを取り消している。これは事実審裁判所に認められた自由裁量の範囲内における判断であり、手続上の違法は認められない。また、弁護人が主張する「各証人調書」の取調べ漏れについても、記録上は「各訊問調書」を読み誤ったものに過ぎず、証拠調べ手続に欠陥はない。
結論
一度採用した証人の証拠決定を取り消して取調べを行わなかったとしても、審理不尽の違法にはあたらず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法298条に基づく証拠調べの裁量権に関する基本判例である。答案上は、裁判所による証拠却下の当否が問われる場面で、公判中心主義や迅速な裁判の観点から「証拠調べの必要性」を裁判所が事後的に再評価し得る根拠として引用する。ただし、被告人の防御権を不当に侵害するような取消しは裁量権の逸脱・濫用となり得る点に注意が必要である。
事件番号: 昭和25(れ)1700 / 裁判年月日: 昭和26年3月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証人申請の取捨選択は事実審の裁量に属し、共犯の疑いがある者の所在が判明したとしても、直ちにその尋問が義務付けられるものではない。他の証拠関係に照らして尋問の必要がないと認めて申請を却下することは、防御権を不当に制限する違法とはいえない。 第1 事案の概要:被告人は、代金の即時支払を約束しながら全額…