第一審第六回公判において、本件と、第五回公判において被告人不出頭のため分離した相被告人Aに対する事件とを併合の上裁判官が同第五回公判調書中の前記証人の供述記載部分を被告人に読聞けたのに対し、弁護人は同証人の供述内容に基ずいて被告人に対し質問を行つているのであるから、同証人の尋問請求者たる弁護人としては該証人に対する取調請求の目的を達したものともいうべく、かような場合には証拠調の決定を取消すことなく且つ被告人のため更に再びその取調をしなかつたからといつて証拠調決定を施行しない違法があるとはいえない。(昭和二三年(れ)第一一七八号同年一二月二四日第三小法廷判決参照)
証人尋問の決定を施行したものと認められる一事例
刑訴法304条,刑訴規則190条,刑訴規則203条
判旨
証拠調べ決定がされた証人について、弁護人がその尋問請求を放棄したと推認でき、かつ当該証人の供述内容に基づく質問等により取調請求の目的を達したといえる場合には、再度の取調べを行わなくとも違法ではない。
問題の所在(論点)
裁判所が一度証拠調べの決定をした証人について、決定を取り消すことなく、かつ再度その取調べを行わなかったことが、証拠調べ決定を施行しない違法に該当するか。
規範
裁判所が証拠調べの決定をした証人であっても、その後の訴訟手続の経過に照らし、請求者が尋問請求を放棄したと推認できる事情があり、かつ、他の機会に当該証人の供述内容が顕出され、それに基づく質問等が行われることで取調請求の目的が実質的に達せられたと認められる場合には、改めて証拠調べを実施しなくても、証拠調べ決定を施行しない違法(刑事訴訟法違反)には当たらない。
重要事実
第一審において証人Bの尋問請求がなされ、証拠調べの決定がされていた。しかし、第5回公判で被告人が不出頭であったため、相被告人Aの事件のみが先行して審理され、そこで証人Bの尋問が行われた。その後の第6回公判において、被告人と相被告人Aの事件が併合された際、裁判官が第5回公判における証人Bの供述記載部分を被告人に読み聞かせた。これに対し、被告人の弁護人はその供述内容に基づき被告人への質問を行っており、実質的に供述内容を争う機会を得ていた。
あてはめ
本件では、第一審の訴訟手続の経過から、弁護人は被告人との関係において証人Bの尋問請求を放棄したものと推認できる。また、併合後の公判において、弁護人は前回の公判調書に記載された証人Bの供述内容に基づき被告人へ質問を行っている。この事実は、証人尋問の請求者である弁護人において、当該証人に対する取調請求の目的を実質的に達成したものと評価できる。したがって、これらの諸事情を併せれば、改めて証人尋問を実施する必要性は失われているといえる。
結論
証拠調べの決定を取り消さずに再度取調べを行わなかったとしても、証拠調べ決定を施行しない違法があるとはいえず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
裁判所が一度採択した証拠について、その後の事情変更(請求の放棄や目的の達成分)によって実施を省略する場合の許容性を示す判例である。実務上は、証拠調べ決定後の事情により証拠調べが不要となった際、明示的な決定の取消しがなくとも直ちに違法とはならない限界事例として参照される。
事件番号: 昭和26(あ)3737 / 裁判年月日: 昭和28年5月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、当事者から申請のあった証人のすべてを必ずしも取り調べなければならないものではない。 第1 事案の概要:被告人Bの弁護人が証人の取調べを申請したが、裁判所がその一部または全部を採用しなかった。これに対し、弁護人が証人取調べの必要性を主張して上告した事案である。 第2 問題の所在(論点):刑…