昭和二四年七月二五日になされた墨田簡易裁判所の公判期日と同一日附の上申書を以て、被告人は右裁判所の被告人に対する弁護人を必要とするかどうかについての書面による問合せ対し弁護人を必要とない旨を申立てている。そして、公判期日においては弁護人をなくして公判が開廷され、その公判において、被告人は弁護人の選任について何等の申出をしていないばかりでなく右上申書は公判期日開廷後に提出されたものではないかと疑うべき点はない等のことに鑑みれば、右上申書は公判開廷前あらかじめ提出されたものと認めるを相当とする。従つて本件はいわゆる強制弁護事件ではあるが、刑訴施行法第五条の規定により、弁護人の立会なくして公判を開廷し審理したとしても何等違法ではない。
刑訴施行法第五条に該当する例
刑訴法289条,刑訴施行法5条
判旨
被告人に対し黙秘権を告知した上で被告事件について陳述することがあるか否かを確かめることは、単に陳述の機会を与えたにすぎず、陳述を強制するものとはいえない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人に対し、黙秘権を告知した後に「被告事件について陳述することがあるか」を確める行為が、陳述を強制しないことを保障した憲法38条1項及び黙秘権に抵触するか。
規範
憲法38条1項及び刑訴法311条1項が保障する黙秘権の趣旨に照らし、裁判所が被告人に対し、終始沈黙し又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨を告げた上で、被告事件について陳述することがあるかどうかを確かめる行為は、被告人に対する陳述の機会の付与であり、陳述の強制には当たらない。
重要事実
被告人は窃盗罪等で起訴された。第一審の公判において、裁判所は被告人に対し、終始沈黙し又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨(黙秘権)を告知した。その上で、裁判所は被告人に対し、被告事件について何か陳述することがあるかどうかを確めた。被告人は、これが黙秘権を侵害し陳述を強制するものであるとして上告した。
あてはめ
第一回公判調書の記載によれば、裁判所は被告人に対し、あらかじめ終始沈黙し又は陳述を拒むことができる旨を告知している。その上で陳述の有無を確めたのは、被告人に対して有利な事実を述べるなど自らを守るための「機会」を提供したにすぎない。このような確認手続は、供述を義務付けたり心理的な強制を加えたりするものではないため、陳述を強制したとは認められない。
結論
被告人に対し陳述があるか否かを確かめることは陳述の強制には当たらず、憲法38条1項等に違反しない。
実務上の射程
冒頭手続等における権利告知(刑訴法291条4項)後の態様として、裁判所による陳述の機会の付与が黙秘権侵害にならないことを示した判例である。答案上は、黙秘権の限界や任意性の判断において、単なる問いかけや機会の提供は強制に当たらないとする論理の補強として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)2390 / 裁判年月日: 昭和28年3月13日 / 結論: 棄却
裁判所が証人を裁判所外で尋問する場合に、被告人が監獄に拘禁されているときのごときは、弁護人に立会の機会を与えてあれば、必ずしも被告人自身を証人尋問に立ち合わせなくても憲法三七条二項の規定に違反しない。