論旨後段は本件犯行当時禁止されていた小麦粉の輸送は原審判決後その禁止が撤廃されたから刑訴四一一条二号五号に該当するものとして、原判決を破棄すべきであるというのである。そして小麦粉の輸送禁止は昭和二七年五月三一日農林運搬省令二号により(所論昭和二七年法律一五八号によるとあるは誤りである)撤廃されたので、同日以後の輸送行為は犯罪とならないのであるが、既にその前に成立した輸送罪については、刑の廃止があつたものとして取扱うことのできないことは、当裁判所昭和二三年(れ)八〇〇号同二五年一〇月一一日大法廷判決並びに昭和二四年(れ)二四七一号同二六年三月二二日第一小法廷判決の趣旨に徴しても明らかであるから所論は採用できない。
昭和二七年農林運輸省令第二号による小麦粉の輸送禁止の撤廃と刑の廃止
食糧管理法3条,食糧管理法9条,昭和27年農林運輸省令2号,刑訴法411条5号
判旨
法律が改正・撤廃され、従前の犯罪事実が犯罪を構成しなくなった場合でも、特段の事情がない限り、刑法6条の「刑の廃止」には当たらず、行為時の法律に基づいて処罰することができる。
問題の所在(論点)
犯罪後の法令変更により、当該行為を禁止する規定が撤廃された場合、刑法6条の「刑の廃止」にあたり、被告人を処罰できなくなるか。
規範
犯罪後の法令変更により禁止が撤廃された場合であっても、それが単なる政策的・事実上の変更にとどまる場合には、刑法6条にいう「刑の廃止」があったものとして取り扱うことはできず、行為時法に従って処罰される。
重要事実
被告人は当時禁止されていた小麦粉の輸送を行った。しかし、原審判決後に農林運輸省令により当該輸送禁止の規制が撤廃され、同日以後の輸送行為は犯罪とならないこととなった。これに対し被告人側は、法令の改廃により刑が廃止されたとして、刑訴法411条2号・5号に基づき原判決を破棄すべきであると主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、昭和27年5月31日の省令により小麦粉の輸送禁止が撤廃された事実は認めた。しかし、既にその撤廃前に成立していた輸送罪については、過去の判例(大法廷判決等)の趣旨に照らし、法令の改廃があったとしても「刑の廃止」があったものとして扱うことはできないと判断した。すなわち、規制の撤廃は将来に向かってのみ効力を有し、過去の違法な行為の可罰性を否定するものではないとした。
結論
本件における小麦粉輸送禁止の撤廃は「刑の廃止」には該当せず、被告人の行為時における法律に基づき処罰を維持した原判決は正当である。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
いわゆる「限時法」や政策的理由による罰則の改廃に関する判例。実務上は、法令変更が「法理的見地からする反省」に基づくものか、単なる「事実上の事情の変化」に基づくものかを区別する際の基礎的な判断枠組みとして機能する(本判決は後者の立場)。
事件番号: 昭和27(あ)4235 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧管理法施行規則の改正により特定の食糧が移動禁止の対象から除外され、統制が事実上廃止されたとしても、改正前に成立した輸送罪の刑が廃止されたものとはいえない。 第1 事案の概要:被告人は食糧管理法および同施行規則に基づき、主要食糧である小麦(裸玄麦)を無許可で輸送したとして起訴された。しかし、第一…