従来主要食糧であつた麦が主要食糧から除外されても、既にその前に成立した主要食糧買受けの罪に対する刑が廃止されたものということはできない。
麦が主要食糧から除外されたことによつて既に成立した主要食糧買受けの罪に対する刑罰は廃止されるか
食糧管理法9条,食糧管理法31条,食糧管理法施行令6条,刑訴法337条2号
判旨
食糧管理法に基づき主要食糧として規制されていた麦の買受行為について、その後に法令の改正により麦が規制対象から除外されたとしても、それは「刑の廃止」には当たらず、行為時の違法性は阻却されない。
問題の所在(論点)
行為当時は処罰の対象であった麦の買受が、その後の法令改正によって主要食糧から除外され、処罰対象外となった場合に、これが「刑の廃止」(刑訴法411条5号)に該当し、原判決を破棄すべき事由となるか。
規範
法令の改廃により特定の行為が処罰対象から除外された場合であっても、それが単なる事実上の変更(時局の変遷に伴う政策的措置)にすぎないときは、刑法6条や刑事訴訟法411条5号にいう「刑の廃止」には当たらず、行為当時の法令に従って処罰される。
重要事実
被告人らは、当時食糧管理法等により買受が禁止されていた主要食糧である麦を買い受けた。しかし、原判決後の昭和27年5月31日、食糧管理法施行令の改正(政令167号)によって、大麦、はだか麦、小麦が主要食糧から除外された。これにより、同日以降は麦の買受が犯罪を構成しない状態となったため、被告人側は「刑の廃止」があったとして上告した。
あてはめ
最高裁は、物価統制令違反や馬鈴薯の輸送罪に関する先行判例を引用し、麦が主要食糧から除外されたとしても、既に成立した買受の罪に対する刑が廃止されたものとはいえないと判断した。これは、特定の物資を規制対象から外す措置が、法律そのものの改廃ではなく、経済情勢の変化等に応じた事実上の変更(限時法的性質)であることを前提に、既に行われた違反行為に対する処罰の必要性は失われないとする論理に基づくものである。
結論
法令の改正により麦が主要食糧から除外されても「刑の廃止」には当たらない。したがって、被告人らの上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、いわゆる「法律の変更」と「事実の変更」の区別に関する重要判例である。司法試験においては、行政規制の対象が変動した場合に、それが法秩序全体の価値判断の変更(刑の廃止)なのか、単なる時局的な政策判断の変更(事実の変更)なのかを峻別する際の基準として活用される。規制緩和等が行われた場合の遡及適用の可否を論じる場面で引用すべき射程を持つ。
事件番号: 昭和27(あ)4235 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧管理法施行規則の改正により特定の食糧が移動禁止の対象から除外され、統制が事実上廃止されたとしても、改正前に成立した輸送罪の刑が廃止されたものとはいえない。 第1 事案の概要:被告人は食糧管理法および同施行規則に基づき、主要食糧である小麦(裸玄麦)を無許可で輸送したとして起訴された。しかし、第一…