しかし、主要食糧を決定の除外理由なくして輸送することを禁止する法規範を定めた食糧管理法施行規則第二三条の七(その後二九条)の規定は、本件犯行の昭和二二年八月二九日及び同月三〇日当時においては勿論、現在でも尚厳として存在する。ただ本件犯罪成立後昭和二四年一二月一日公布農林省令一一五号によつて食糧管理法施行規則第二九条の一部は改正せられ、本件犯罪の目的物と同種類の馬齢薯が主要食糧から除かれ、従つて馬齢薯については同年同月同日以後輸送しても差支えなくなつただけである。それは例えば通貨偽造罪成立後当該種類の通貨だけが法令によりその通貨としての強制通用力を失い、又は収賄罪成立後当該公務員の官職だけが法令により廃止されても犯罪の成立に影響のないのと同じである。されば、右省令は、既に成立した主要食糧輸送禁止違反の犯罪に対する刑罰を廃止したものとはいえないから、所論は採用できない。
昭和二四年一二月一日農林省令第一一五号による食糧管理法施行規則の一部改正との刑の廃止
食糧管理法施行規則(昭和24・12・1農林省令115号により一部改正)29条,旧刑訴法363条2号
判旨
犯罪成立後に法令の改正により特定の対象物が規制対象から除外されたとしても、禁止の法規範自体が存続している限り、刑法6条等の「刑の廃止」には当たらない。
問題の所在(論点)
法令の改正により犯罪の目的物(本件では馬鈴薯)が規制対象から外れた場合、刑法6条や旧刑事訴訟法363条(現行刑訴法337条2号)にいう「刑の廃止」に該当するか。
規範
刑法6条等にいう「刑の廃止」とは、当該行為を犯罪として処罰する法規範そのものが消滅することを指す。法令の改正により、規制対象物の一部が除外されたり、特定の官職が廃止されたりしたとしても、禁止を定めた法規範自体が厳として存在する場合には、刑の廃止には該当しない。
重要事実
被告人は、昭和22年8月、当時の食糧管理法施行規則により輸送が禁止されていた主要食糧である馬鈴薯を輸送した。しかし、判決前の昭和24年12月の省令改正により、馬鈴薯が「主要食糧」の定義から除外され、以降の輸送は自由化された。被告人は、これが「刑の廃止」に当たるとして、原判決の破棄(免訴)を求めて上告した。
あてはめ
食糧管理法施行規則29条は、主要食糧を法定の除外事由なく輸送することを禁止する法規範を定めており、この規範自体は改正後も存続している。本件の改正は、主要食糧の範囲から馬鈴薯を除外したに過ぎず、これは通貨偽造罪成立後に当該通貨の強制通用力が失われた場合や、収賄罪成立後に当該公務員の官職が廃止された場合と同様、犯罪の成立に影響を及ぼさない。したがって、馬鈴薯の輸送禁止違反という既に成立した犯罪に対する刑罰が廃止されたものとは認められない。
結論
本件省令改正は「刑の廃止」には当たらない。したがって、被告人を処罰した原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
いわゆる「限時法」や法令改正における「法律状態の変更」と「事実関係の変更」の区別に関する重要判例。事実上の変更(対象物の指定解除等)にすぎない場合は刑法6条の適用を否定する「事実上の変更説(法律変更・事実変更区別説)」の系譜に属する。
事件番号: 昭和27(あ)4235 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧管理法施行規則の改正により特定の食糧が移動禁止の対象から除外され、統制が事実上廃止されたとしても、改正前に成立した輸送罪の刑が廃止されたものとはいえない。 第1 事案の概要:被告人は食糧管理法および同施行規則に基づき、主要食糧である小麦(裸玄麦)を無許可で輸送したとして起訴された。しかし、第一…