判旨
刑事訴訟法326条1項に基づく伝聞証拠の証拠能力の付与において、同項に規定される「相当と認めるとき」の判断は証拠能力決定の要件であり、実質的な証明力の評価とは区別される。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法326条1項により伝聞証拠を証拠採用する際、「情況を考慮し相当と認める」という要件は、証拠の価値判断(証明力の評価)の問題として扱われるべきか、あるいは証拠能力の要件として扱われるべきか。
規範
刑事訴訟法326条1項は、検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面等について、裁判所が「その書面が作成され又は供述されたときの情況を考慮し相当と認めるとき」に証拠能力を認めるとしている。この「情況の考慮」は、証拠能力を付与するための独立した要件(証拠能力の要件)であり、証拠が提出された後の価値判断や取捨選択(証明力の評価)とは異なる性質のものである。
重要事実
第一審裁判所は、供述者Aが検察官に対して作成した供述調書について、被告人側の同意を得た上で証拠として採用した。これに対し弁護人は、裁判所が同条1項に規定される「相当と認める」か否かについての審理や考慮を怠ったまま証拠採用したことは不当であり、証拠の取捨選択に関する判例に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件における弁護人の主張は、証拠の価値判断や取捨選択に関する先行判例を引用し、裁判所の考慮不足を非難するものであった。しかし、法326条1項の「情況の考慮」は、当該書面に証拠能力を付与するか否かを決定するための法的要件である。したがって、証拠提出後の実質的な証拠価値(証明力)を論じる判例を、証拠能力の付与段階の問題にそのまま適用することは適切ではない。記録上、証拠能力の付与プロセスに違法は認められない。
結論
法326条1項による情況の考慮は証拠能力決定の要件であり、証明力の評価とは異なる。本件において原判決に判例違反等の上告理由は認められない。
実務上の射程
同意書面の証拠能力(326条)に関する基本判例。実務上、同意があれば特信情況の検討を要せず証拠採用されることが多いが、形式的な同意があっても特段の事情(拷問による任意性の疑い等)がある場合には、裁判所が「不相当」として証拠能力を否定し得る余地を認める法的根拠が本条の「相当と認めるとき」であることを示唆している。答案上は、同意がある場合の証拠能力の要件の一つとして淡々と記述すべき部分である。
事件番号: 昭和27(あ)2904 / 裁判年月日: 昭和28年10月19日 / 結論: 棄却
第一審第三回公判調書には、「検察官は……刑事訴訟法第三二八条により、四、Aの麻薬取締官作成第一回供述調書一の各取調べを請求した」と明記されているから、そのあとに、「被告人及弁護人は、右各書面の取調べに異議なく之を証拠とするに同意する…旨述べた」とあるのは、Aの供述調書についてはこれを事実認定の証拠とすることに同意(刑三…