所論被告人の検察官に対する供述調書は刑訴三二二条の書面として検察官が取調を請求し、第一審裁判所も同書面として証拠決定をなし取り調べたものであることは所論のとおりであるが、右供述調書は被告人の署名拇印があり、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであること(同条一項本文前段参照)記録上明白であるから、かかる書面については供述の任意性が認められるかぎりこれを証拠とすることができるのであつて(同条一項但書参照)「特に信用すべき情況の下にされたものである」(同条一項本文後段参照)ことを条件とするものではないことは同条の明文に徴し明らかである。
刑訴法第三二二条第一項本文前段の供述調書が証拠能力を有するための条件
刑訴法322条
判旨
被告人の供述が不利益な事実の承認を内容とする書面(刑訴法322条1項)の証拠能力は、供述の任意性が認められる限り認められ、特信情況の存在を要件としない。
問題の所在(論点)
被告人の不利益な事実の承認を内容とする検察官面前供述調書につき、刑事訴訟法322条1項の証拠能力が認められるためには、「任意性」に加えて「特に信用すべき情況(特信情況)」の存在まで必要とされるか。
規範
刑事訴訟法322条1項の規定によれば、被告人の供述を録取した書面が「被告人に不利益な事実の承認を内容とするもの」である場合(同条項本文前段)、同書面に被告人の署名・押印があり、かつ供述の任意性が認められる限り(同条項但書)、証拠能力が認められる。この場合、同条項本文後段が定める「特に信用すべき情況の下にされたものであること」を要件とするものではない。
重要事実
被告人が覚せい剤取締法違反等で起訴された事案。検察官は、被告人の自白を含む検察官面前供述調書を証拠請求し、裁判所は証拠採用した。これに対し弁護側は、当該調書が証拠能力を欠くものであるにもかかわらず、これに基づき事実認定を行ったことは判例違反であると主張して上告した。なお、本件では隣家(被告人の叔母宅)の捜索において別個の令状に基づき押収された注射液の証拠能力も争点となったが、適法な令状に基づくものと判断された。
あてはめ
本件の検察官に対する供述調書には被告人の署名・押印があり、その内容は被告人に不利益な事実(自白)の承認であった。同条1項の明文上、不利益な事実の承認を含む書面については、但書により「任意性」が認められれば足りる。本文後段の「特信情況」は、不利益な事実の承認以外の供述を含む書面について適用される要件であり、自白調書においては要件とならない。したがって、本件調書に任意性が認められる以上、当然に証拠能力が肯定される。
結論
被告人の不利益な事実に係る供述調書の証拠能力は、任意性が認められる限り肯定され、特信情況の具備は不要である。本件の上告は棄却される。
実務上の射程
伝聞例外のうち322条1項本文前段(不利益な事実の承認)と後段(その他の供述)の適用関係を峻別する際の基礎となる判例である。司法試験においては、被告人の自白調書が伝聞例外として許容される要件を検討する際、322条1項但書(任意性)の充足のみを論じれば足り、321条1項2号のような特信情況の議論を混同してはならないことを示す論拠として用いる。
事件番号: 昭和27(あ)3024 / 裁判年月日: 昭和28年9月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法326条1項に基づく伝聞証拠の証拠能力の付与において、同項に規定される「相当と認めるとき」の判断は証拠能力決定の要件であり、実質的な証明力の評価とは区別される。 第1 事案の概要:第一審裁判所は、供述者Aが検察官に対して作成した供述調書について、被告人側の同意を得た上で証拠として採用した…
事件番号: 昭和30(あ)822 / 裁判年月日: 昭和30年7月7日 / 結論: 棄却
いわゆる簡易公判手続の決定のあつた事件において、検察官提出の証拠につき、被告人または弁護人が証拠とすることに意義を述べないときは、被告人または弁護人の同意がなくても証拠調をし且つこれに証拠能力を認めて事実認定の資料に供することができる。