第一審第三回公判調書には、「検察官は……刑事訴訟法第三二八条により、四、Aの麻薬取締官作成第一回供述調書一の各取調べを請求した」と明記されているから、そのあとに、「被告人及弁護人は、右各書面の取調べに異議なく之を証拠とするに同意する…旨述べた」とあるのは、Aの供述調書についてはこれを事実認定の証拠とすることに同意(刑三二六条にいう同意)した趣旨でないことが明瞭である。従つて、第一審判決が右供述調書を犯罪事実認定の証拠の一つとして挙示していることは、まことに所論のとおり違法であり、原判決が被告人側の同意を理由としてこれを適法な採証と解したことは、誤であるといわなければならない。しかし、右供述調書を除外しても、第一審判決挙示の他の各証拠により本件犯罪事実は充分に認定しうるものと判断されるから、右違法は判決に影響を及ぼさず、したがつて刑訴四一一条一号を適用すべき事由とはならない。
綜合認定した証拠の一部に違法なものがあつても判決に影響を及ぼさない一事例 ―検察官が刑訴三二八条により提出した供述調書に対し、取調の同意はあつたが証拠とすることの同意があると認められない場合―
刑訴法321条1項3号,刑訴法328条,刑訴法326条,刑訴法335条,刑訴法411条
判旨
刑事訴訟法328条に基づき弾劾証拠として請求された供述調書について、被告人側が「異議なく之を証拠とするに同意する」と述べたとしても、それは伝聞例外としての証拠同意(326条)をした趣旨とは解されない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法328条により請求された証拠に対し、「同意する」旨の意見が述べられた場合、これを同法326条の証拠同意とみなして実質証拠として採用することができるか。
規範
刑事訴訟法328条(回復・弾劾証拠)に基づき請求された証拠に対してなされた「同意」の文言は、あくまで請求の趣旨(弾劾証拠としての取調べ)に応じたものと解すべきであり、当然に326条の同意(実質証拠としての許容)を包含するものではない。証拠の取調べは、その請求の法的根拠および趣旨に即して判断されるべきである。
重要事実
検察官が公判において、刑事訴訟法328条に基づき、麻薬取締官作成の供述調書の取調べを請求した。これに対し被告人および弁護人は、右書面の取調べに異議なくこれを証拠とすることに同意する旨を述べた。第一審は、この同意をもって326条の同意があるものと解し、当該調書を犯罪事実認定の証拠(実質証拠)として採用した。
あてはめ
本件では、検察官は明示的に328条に基づき取調べを請求している。これに対し被告人らが「異議なく同意する」と述べたとしても、それは328条による請求(自己矛盾供述による証明力減殺等)に対して異議がないという趣旨である。したがって、これを326条に基づく同意と解して犯罪事実認定の証拠に供することは、証拠法の解釈を誤った違法な採証であるといえる。
結論
328条に基づき請求された証拠を、326条の同意があるものとして実質証拠に採用することは違法である(ただし本件では、他の証拠により事実認定が可能であるため、判決に影響を及ぼす法例違反には当たらない)。
実務上の射程
証拠同意(326条)の有無を判断する際は、検察官の請求趣旨や立証趣旨に照らして慎重に解釈すべきである。328条の弾劾証拠は本来「公判供述の証明力を争うため」の証拠であり、たとえ相手方の同意があっても、原則として実質証拠(犯罪事実の認定根拠)に転換されるわけではないことを示す。
事件番号: 昭和26(あ)4203 / 裁判年月日: 昭和28年1月16日 / 結論: その他
被告人は第一審において公訴犯罪事実を認めて争わず弁護人も被告事件については特に陳述することはないと述べているし、殊に検察官は、証拠とすることについて被告人の同意を得て書証の取調を請求したのに、被告人及び弁護人は右証拠調請求に異議はないと述べているのであり、しかも右証拠調実施後被告人及び弁護人はなんらの異議の申立もしてい…
事件番号: 昭和27(あ)2101 / 裁判年月日: 昭和28年6月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人および弁護人が証拠とすることに同意した供述調書については、強制による自白であるとの証拠がない限り、証拠能力を認めることができる。 第1 事案の概要:被告人Bの第一回供述調書について、弁護人は強制による自白であると主張して違憲を訴えた。しかし、訴訟記録上、強制の事実は認められなかった。また、差…