被告人は第一審において公訴犯罪事実を認めて争わず弁護人も被告事件については特に陳述することはないと述べているし、殊に検察官は、証拠とすることについて被告人の同意を得て書証の取調を請求したのに、被告人及び弁護人は右証拠調請求に異議はないと述べているのであり、しかも右証拠調実施後被告人及び弁護人はなんらの異議の申立もしていないのであるから、本件においては被告人は検察官の取調請求にかかる所論の各書証を証拠とすることに同意したものと認めるのを相当とする。
検察官の証拠調請求に「異議がない」と述べたことが「証拠とすることの同意」と解せられる場合
刑訴法309条,刑訴法326条
判旨
検察官が被告人の同意を得て書証の取調を請求し、これに対し被告人及び弁護人が異議はない旨を述べて証拠調べが実施された場合には、刑訴法326条1項の同意があったものと認められる。
問題の所在(論点)
被告人が検察官の証拠調請求に対して「異議なし」と述べ、証拠調べが実施された場合、刑事訴訟法326条1項の「証拠とすることに同意」があったといえるか。
規範
検察官が証拠とすることについて被告人の同意を得て書証の取調を請求し、被告人及び弁護人が当該請求に対して異議がない旨を述べ、かつ証拠調べ実施後も異議を申し立てていない場合には、特段の事情がない限り、被告人は当該書証を証拠とすることに同意したもの(刑事訴訟法326条1項)と認めるのが相当である。
重要事実
被告人は第一審において公訴事実を認めて争わず、弁護人も特段の陳述を行わなかった。検察官は、証拠とすることについて被告人の同意を得て書証の取調を請求した。これに対し、被告人及び弁護人は右証拠調請求に異議はない旨を述べ、証拠調べが実施された。さらに、証拠調べ実施後も被告人及び弁護人は何ら異議を申し立てなかった。その後、弁護人は書証の証拠能力に関連して憲法31条違反等を主張して上告した。
あてはめ
本件では、検察官はあらかじめ同意を得た上で書証の請求を行っている。これに対し、被告人及び弁護人は法廷で明示的に「異議はない」と述べており、手続上も証拠調べ実施前後にわたって一切の異議を申し立てていない。このような訴訟手続の経過に鑑みれば、被告人には当該書証の証拠能力を認める確定的、明示的な意思表示があったといえる。したがって、伝聞例外としての同意(刑訴法326条1項)が成立しており、証拠能力を認めた第一審の手続に違法はない。
結論
被告人と弁護人が証拠調請求に異議がない旨を述べた以上、証拠とすることへの同意があったと認められるため、証拠能力を肯定した原判決に憲法31条違反や訴訟法違反の不備はない。
実務上の射程
伝聞証拠の同意に関するリーディングケースである。答案上は、黙示の同意(単なる沈黙)ではなく、検察官の請求に対する「異議なし」という回答が法326条の「同意」に含まれることを示す際に活用する。被告人本人のみならず、弁護人の異議なしの表明も重視される点に留意が必要である。
事件番号: 昭和26(あ)5117 / 裁判年月日: 昭和28年3月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人及び弁護人が供述調書の証拠採用に異議を述べず同意した場合には、その証拠能力に違法はなく、強要等の事実が認められない限り、証拠とすることが認められる。 第1 事案の概要:被告人が特定の供述調書につき、第一審等の公判手続において証拠とすることに対し、弁護人とともに異議を述べず同意した事案。その後…