判旨
訴因の撤回や訂正がなされた場合であっても、他の訴因が変更・不明確とならず、かつ判示の事実が証拠により認められるのであれば、一部に訴訟法上の不備があったとしても原判決を破棄すべき「著しく正義に反する」事由には当たらない。
問題の所在(論点)
公判廷における検察官による一部訴因の撤回および訂正の申立てがなされた場合において、その手続に不備があることが直ちに刑事訴訟法411条の破棄事由(著しく正義に反する場合)に該当するか。
規範
第一審における訴訟手続に不備(訴因の撤回・変更に関する手続違背等)があったとしても、原判決の維持が著しく正義に反すると認められない限り、最高裁判所は職権による破棄(刑事訴訟法411条)を行うべきではない。特に、一部の訴因撤回が他の訴因の明快性を損なわず、証拠に基づき犯罪事実が認定できる場合には、原判決を維持するのが相当である。
重要事実
被告人が多数の米の買受および輸送を行った事案において、検察官事務取扱が第一審の公判廷で、公訴事実の一部(粳玄米2斗)を撤回し、数量等の訂正を申し立てた。裁判官はこの申立てを許可したが、その後の手続において当該撤回や訂正が正確に反映されているか、あるいは訴因が不明確になったのではないかが上告審で問題となった。
あてはめ
本件では、検察官の申立てにより粳玄米2斗の輸送罪に関する訴因が撤回された事実は認められる。しかし、その他の訴因については、右の訂正によって内容が変更されたり不明確になったりしたとは認められない。また、第一審が認定した輸送の事実は提示された証拠によって十分に肯認できる。したがって、仮に一部の訴訟手続に違反があったとしても、実体的な事実認定に影響はなく、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する状況にあるとはいえない。
結論
本件における訴因撤回等に関する手続上の瑕疵は、原判決を破棄すべき事由(刑事訴訟法411条)には当たらないため、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法411条の適用を制限的に捉える実務上の指針。特に一部訴因の整理において手続的不備があっても、実体的な有罪認定に合理的な疑いがない限りは、直ちに破棄自判や差し戻しの対象とはならないことを示唆している。
事件番号: 昭和28(あ)2091 / 裁判年月日: 昭和28年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、審理の経過に照らし、被告人の防御に実質的な不利益を及ぼすおそれがない場合には、訴因変更の手続きを経ることなく、起訴状記載の事実と異なる事実を認定することができる。 第1 事案の概要:被告人が特定の犯罪事実により起訴された際、原判決(第2審)が訴因変更手続きを経ずに、訴因に示された事実とは…