建物(未完成)収去土地明渡の仮処分事件において被申請人の占有を解いて執行吏の保管に移す旨の決定に基いて、執行吏が右建物の土間にその旨の公示札を立て、該建物を保管中、被告人が弁護士の意見を聴き右仮処分決定は建物の建築工事の続行禁止を含まないものと誤信し、擅に建物内に立ち入り工事を進行させた場合は、刑法第九六条の罪の成立を妨げない。
仮処分命令の内容に関する被告人の誤信と刑法第九六条の罪の成否
刑法38条1項,刑法96条
判旨
強制執行妨害罪(旧刑法96条、現96条の2)における公示札損壊等の罪は、物理的な破壊や撤去のみならず、目的物の現状を変更して執行官による占有を侵害し、公示札の効用を滅却させる行為によっても成立する。また、執行手続に瑕疵がある可能性があっても、取り消されない限り法律上有効であり、その執行の効用を失わせる行為は同罪を構成する。
問題の所在(論点)
1. 公示札自体を物理的に破壊せず、建物の工事を完了させる行為が「公示札を損壊し、又はその他の方法によりその効用を害した」といえるか。2. 執行手続に占有の誤認等の瑕疵がある場合でも、その執行の効用を保護すべきか。
規範
1. 本罪の実行行為は、公示札等を単に物理的に損壊・取去る行為に限られず、執行の効用を失わせる(効用を滅却する)一切の行為を含む。2. 本罪の故意は、仮処分の執行の効用を失わしめることの認識があれば足りる。3. 執行手続が被申請人の占有を誤認してなされたとしても、当該手続が適法に取り消されない限り法律上有効なものとして取り扱われる。
重要事実
被告人は、工事続行禁止の仮処分命令に基づき、未完成建物の土間に執行官が公示札を立てて占有を取得したのに対し、ほしいままに工事を続行して床を張り、建物を住宅として完成させた。被告人は、公示札自体を物理的に損壊・撤去した事実はなく、また仮処分命令の内容等について誤信していたと主張した。さらに、目的物の占有は第三者に属しており執行手続自体に問題があったとも主張した。
あてはめ
1. 公示札は、仮処分の目的物たる建物につき執行官が占有を取得したことを示すものである。被告人が床を張り住宅として完成させた行為は、執行官の占有を侵害し、公示札による公示の目的を実質的に失わせるものであるから、公示札の効用を滅却したものといえる。2. 被告人が公示札を物理的に撤去したか否か、あるいは仮処分命令の内容を誤解していたかは、執行の効用を失わせる認識がある以上、犯罪の成立を左右しない。3. たとえ占有関係の認定に誤りがあったとしても、取り消されない限り執行は有効であり、これに抗する行為は処罰の対象となる。
結論
被告人の所為は、旧刑法96条の強制執行妨害罪(公示札の効用滅却)を構成する。上告棄却。
実務上の射程
強制執行の効力を実質的に無効化する脱法的な行為を広く捕捉する射程を持つ。民事執行手続の瑕疵を理由とする公然たる抵抗を許さず、手続的な是正(執行異議等)を待たずに自力救済的に執行を無効化する行為を厳しく処罰する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和26(あ)3936 / 裁判年月日: 昭和28年5月13日 / 結論: 棄却
被告人が仮処分命令(被告人の占有を解いて執行吏の保管に移し、被告人にその劇場の経営を禁じたもの)に違反し、その公示板の上から映画ポスターをかけてこれを見えないようにし、右建物を使用して、映画、興行を経営した以上、刑法九六条所定の「差押ノ標示ヲ無効タラシメ」た罪に該当することは勿論である。