原審の認定した事実関係の下においては、本件土地全部の占有は、仮処分命令の執行によつて執行吏職務代行者の占有に帰し、右執行当時、該地上には、未だ独立して占有の対象となるべき家屋その他の工作物は存在しなかつたものと認められるから、被告人が右地上に不動産である家屋を完成せしめたことは、右執行吏の占有の態容に重大な変更を与えたものというべきであり、従つてその占有を侵害したものとして、封印破棄罪の成立を認めた原審の判断は相当である。 (原審の認定した事実関係の要旨)被告人は甲より不法占有として明渡を求められ係争中である宅地のうち西北方の九坪三合六勺の上に、甲には無断で新に間口三・六五米奥行六・五二米の木造二階建の家屋の建築にとりかかつたため、甲は右九坪三合六勺の土地につき、「一、右土地に対する被申請人の占有を解き申請人の委任した執行吏にその保管を命ずる。二、被申請人は右土地の上に建物その他工作物を設置してはならない三、申請人の委任した執行吏は、右命令の趣旨を公示するため適当の処置をとらなければならない。」旨の不動産仮処分決定を得て、執行吏職務代行者乙にその執行を委任し、右乙は即日現場に臨んで右仮処分を執行し、右土地についての被告人の占有を解き自己の占有に移し、同時に右仮処分内容をしたためた公示札を建築中の家屋の柱に釘付けした。執行当時右建物は基礎たるコンクリートの上の柱の仕組が終つたばかりで、屋根にするトタン板及び二階床板はいずれも釘付けせず並べてあるに止り、何等の造作も施されていなかつたものである。
執行吏占有地上の未完成建物の完成行為と封印破棄罪の成否
刑法96条
判旨
土地の占有が執行吏に移転している場合において、当該地上に不動産である家屋を完成させる行為は、執行吏の占有の態容に重大な変更を与えるものであり、封印等破棄罪(刑法96条)における占有の侵害にあたる。
問題の所在(論点)
執行吏が占有する土地上に、被告人が無断で家屋を建築し完成させた行為が、刑法96条の封印等破棄罪(占有の侵害)を構成するか。
規範
刑法96条(現96条1項)の封印等破棄罪における占有の侵害とは、執行吏等の公務員が法律の規定に基づき管理している占有状態を、その態容において重大な変更を加えることにより、実質的に害することをいう。不動産である土地の占有については、単なる立ち入りを超え、地上に工作物を構築するなどして占有の態容を著しく変容させる行為がこれに該当する。
重要事実
土地全部の占有が、仮処分命令の執行によって執行吏職務代行者の占有に帰していた。執行当時、当該地上にはいまだ独立して占有の対象となるべき家屋その他の工作物は存在していなかった。しかし、被告人は執行吏の占有下にある当該地上において、不動産である家屋を建築し、これを完成させた。
あてはめ
本件では、仮処分執行により土地の占有が執行吏に完全に移転していた。執行当時には存在しなかった独立の不動産である家屋を、被告人が当該地上に構築したことは、土地の利用状況を根本的に変えるものである。これは、執行吏による管理状態、すなわち占有の態容に対して重大な変更を及ぼしたものと評価できる。したがって、被告人の行為は執行吏の占有を侵害したものといえる。
結論
被告人の行為は、執行吏の占有の態容に重大な変更を与え、その占有を侵害したものとして、封印等破棄罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、封印自体の損壊がなくても、執行対象物件の占有状態を実質的に変更する行為が「占有の侵害」として処罰対象となることを示した。特に、更地の土地占有に対する建物建築という不可逆的な態容変更が、罪の成立を基礎付ける重要な考慮要素となる。答案上は、公務執行妨害罪の保護法益である『公務の適正な執行』を実質的に害する行為として論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和38(あ)1604 / 裁判年月日: 昭和39年8月13日 / 結論: 棄却
一 被告人の所為をもつて刑法第九六条所定の「公務員の施した差押の標示を無効ならしめた罪」にあたるとした原判断は正当である。 二 (原判決の判断の要旨)執行吏が仮処分の執行として物の占有を自己に移し、その旨の標示をした上、現状不変更を条件として使用を許したときは、仮処分の執行を受けたものは、これを使用するについて、破損箇…