執行吏代理が、被告人の占有していた家屋を、仮処分決定の債務者の占有にかかるものと誤認して、執行吏の占有保管に移す旨の執行をし、その公示をした場合において、右執行吏代理には故意に被告人の権利を侵害する目的がなく、かつその執行が当然無効あるいは不存在と認められるようなものでないときは、被告人が、法律上の救済手続をとることなく、右家屋に入居する行為は、差押の標示を無効ならしめたものとして、封印破棄罪に該当する。
占有者を誤認してなされた仮処分の執行と封印破棄罪の成否
刑法96条
判旨
執行吏が第三者の占有を誤って債務者の占有と認めて執行した場合でも、その瑕疵が重大かつ明白で執行が当然無効といえない限り、当該執行により第三者の占有も制限される。したがって、第三者が法的手段によらず執行の標示を侵せば封印等破棄罪が成立する。
問題の所在(論点)
執行吏が第三者の占有物件を誤って債務者の占有と誤認して執行した場合、その執行は当然無効となるか。また、正当な占有権限を有する第三者が当該執行の標示を侵した場合に、刑法96条の封印等破棄罪が成立するか。
規範
執行吏が、実際には第三者が占有する物件を債務者の占有と誤認して執行した場合であっても、執行吏に故意に第三者の権利を侵害する目的がなく、かつその瑕疵が重大かつ明白で執行行為自体が当然無効または不存在と認められる場合でない限り、当該執行および公示により、第三者の占有も制限を受ける。当該執行を排除するには、執行方法の異議または第三者異議の訴えによるべきであり、これらの取消しを得ない限り、当該物件の使用は許されない。
重要事実
被告人は、本件建物の実質上の買受人として鍵を所持し、時折見回りを行うなどして建物を占有していた。しかし、執行吏代理は、既に転居して占有を失っていた債務者Aが依然として建物を占有しているものと誤認し、Aを債務者とする仮処分執行に着手した。執行吏は建物に公示書を掲示したが、被告人は仮処分の取消しを得ないまま本件建物に入居し、その差押えの標示を無効ならしめた。
あてはめ
本件では、執行吏代理において故意に第三者の権利を侵害する目的があったとは認められない。また、占有者の誤認という瑕疵は、執行行為を当然無効あるいは不存在たらしめるほどに重大かつ明白なものとはいえない。そうである以上、本件仮処分執行とその公示によって、第三者である被告人の占有も制限を受けるに至ったと解される。被告人が、適法な手続によって執行の取消しを求めることなくあえて入居した行為は、執行吏の占有を侵害し、差押えの標示を無効にしたといえる。
結論
被告人の行為は封印等破棄罪を構成する。執行に瑕疵があったとしても、当然無効でない限りは公務員が職務上設けた標示としての効力を有するため、有罪とした原判決の結論は相当である。
実務上の射程
民事執行の有効性と刑法上の保護の見地から、執行の「公定力」に近い効力を認めた判例である。答案上は、執行手続に瑕疵がある場合に「公務員の職務」の適法性や標示の有効性を検討する際の規範として用いる。重大明白な瑕疵がない限り、私力救済は許されず、法定の手続(執行異議等)によるべきであることを強調する際に有用である。
事件番号: 昭和28(あ)4915 / 裁判年月日: 昭和31年4月13日 / 結論: 棄却
一 建物について執行吏の占有保管に移す旨の仮処分の執行がなされ執行吏の公示書には「本件建物は仮処分申請事件につき仮処分の執行をした、何人も該建物を処分し又は此の公示書を破棄してはならない」旨掲記され、右仮処分の執行に際し、執行吏は被申請人に対し右仮処分の要旨を示した上、本件仮処分の物件は執行吏の占有に移つたからこれを処…