一 被告人の所為をもつて刑法第九六条所定の「公務員の施した差押の標示を無効ならしめた罪」にあたるとした原判断は正当である。 二 (原判決の判断の要旨)執行吏が仮処分の執行として物の占有を自己に移し、その旨の標示をした上、現状不変更を条件として使用を許したときは、仮処分の執行を受けたものは、これを使用するについて、破損箇所の修繕等その物の保存に必要な行為のほか、現状不変更を条件とする使用許可の趣旨に反しない限度において、些少の変更を加えることはもとより許されるとしても、その物の現状において許された通常の使用方法によらず、物の構造上の変更を来たすが如き造作がなされる場合は、現状のまま保存占有しようとする差押の目的を直接妨害することとなり、差押の標示を実際上滅却又は減殺するものというべきであつて、その変更が被保全権利の実行を不能又は著しく困難ならしめたか否かにかかわりなく、刑法第九六条にいわゆる差押の標示を無効ならしめた罪に該当するものと解すべきである。
刑法第九六条所定の公務員の施した差押の標示を無効ならしめた罪にあたると判断された事例。
刑法96条,民訴法755条
判旨
公務員が施した差押の標示(封印等)を損壊・除去する行為のみならず、その効力を事実上失わせる一切の行為は、刑法96条の「無効ならしめる」行為に該当する。
問題の所在(論点)
刑法96条(封印等破棄罪)における「無効ならしめた」とは、物理的な破壊・除去に限られるのか、それ以外の方法によって標示の効力を失わせる行為も含まれるのかが問題となった。
規範
刑法96条(現行96条1項)にいう「無効ならしめた」とは、公務員が適法に実施した封印や差押の標示などの効力を、物理的な損壊や除去に限らず、その他の方法によって事実上喪失させる一切の行為を指す。標示自体は残存していても、その標示が表象する心理的・法律的な抑止力を無価値にする行為が含まれる。
重要事実
被告人は、公務員(執行官等)によって適法に差し押さえられ、その旨の標示がなされていた物件に対し、当該標示の効力を失わせるような行為(具体的な態様は判決文からは不明)に及んだ。原判決は、この被告人の行為が刑法96条の構成要件に該当すると判断し、被告人がこれに不服を申し立てて上告したものである。
あてはめ
最高裁は、原審が認定した事実関係に基づけば、被告人の所為が「公務員の施した差押の標示を無効ならしめた罪」に当たるとした判断は正当であるとした。具体的なあてはめの詳細は判決文からは不明であるが、物理的な破壊がなくても、差押の目的を達し得ない状態に置く行為があれば、標示の効力を事実上失わせるものとして、同条の「無効ならしめた」に該当すると評価される。
結論
被告人の行為は、公務員の施した差押の標示を無効ならしめたものとして、刑法96条(封印等破棄罪)が成立する。
実務上の射程
本決定は極めて簡潔であるが、従来の判例・通説の立場を維持している。答案上、封印等破棄罪の実行行為(無効化)を論じる際は、物理的損壊に限定せず、「事実上その効力を失わせる行為」が含まれることを明示し、差押物件の隠匿や使用不能化といった事実をこの規範にあてはめて論じるべきである。
事件番号: 昭和26(あ)3936 / 裁判年月日: 昭和28年5月13日 / 結論: 棄却
被告人が仮処分命令(被告人の占有を解いて執行吏の保管に移し、被告人にその劇場の経営を禁じたもの)に違反し、その公示板の上から映画ポスターをかけてこれを見えないようにし、右建物を使用して、映画、興行を経営した以上、刑法九六条所定の「差押ノ標示ヲ無効タラシメ」た罪に該当することは勿論である。