被告人が仮処分命令(被告人の占有を解いて執行吏の保管に移し、被告人にその劇場の経営を禁じたもの)に違反し、その公示板の上から映画ポスターをかけてこれを見えないようにし、右建物を使用して、映画、興行を経営した以上、刑法九六条所定の「差押ノ標示ヲ無効タラシメ」た罪に該当することは勿論である。
刑法九六条所定の「差押ノ標示ヲ無効タラシメ」た罪に該当する一事例
刑法96条
判旨
建物の占有を解き、執行吏の保管に移した上で貼付された仮処分命令の公示板は、刑法96条(現96条1項)の「差押えの標示」に該当し、これを隠蔽して建物を使用する行為は「無効」にする罪を構成する。
問題の所在(論点)
建物の占有を解く仮処分の執行に伴い付された「公示板」が、刑法96条の「差押えの標示」に該当するか。また、これをポスターで覆い隠して建物を使用する行為が「無効」にする行為に該当するか。
規範
刑法96条(封印等破棄罪)にいう「差押えの標示」とは、強制執行や仮処分等の公務上の執行において、その目的物の現状を維持するために付された標示を指す。また、当該標示の「無効」化とは、標示を物理的に損壊する行為のみならず、その効力を事実上失わせる一切の行為を含む。
重要事実
執行吏代理Bは、建物(劇場)に対する仮処分命令の執行として、債務者である被告人の占有を解いて執行吏の保管に移した。その際、被告人が劇場の経営をしてはならない旨を記載した公示板を建物の壁面に貼付した。これに対し被告人は、映画興行を行う目的で、当該公示板の上から映画ポスターを重ねて貼り、公示板を見えない状態にした上で、劇場を使用して興行を継続した。
あてはめ
本件公示板は、適法な仮処分命令の執行として被告人の占有を排除し、執行吏の保管下にあることを示すために貼付されたものであるから、「差押えの標示」にあたる。被告人は、当該公示板の上にポスターを重ねて貼ることで、外部からその存在を確認できない状態にしており、標示が有する「劇場経営の禁止」という公示機能を物理的・心理的に遮断したといえる。このような隠蔽行為により、差押えの状態を維持する標示の効力を事実上失わせた以上、標示を「無効」にしたものと解される。
結論
被告人の行為は、刑法96条(現96条1項)の封印等破棄罪(差押標示無効罪)に該当する。
実務上の射程
仮処分に基づく公示板の効力を広く認め、物理的な剥離・損壊に至らなくても、その視認性を奪い執行目的を妨害する行為は「無効」にあたるとする。実務上、強制執行や保全処分の実効性を担保するための重要な判断指針となる。
事件番号: 昭和33(あ)1859 / 裁判年月日: 昭和36年10月6日 / 結論: 棄却
店舗を含む建物について、これを執行吏の保管に移すとともに、その現状を変更しないことを条件として被申請人の使用を許す旨の仮処分命令が執行され、かつ、該建物の占有が執行吏に移つたことを明らかにする公示書が存在する場合、右差押の事実を知りながら被申請人と共謀の上執行吏に無断で右建物の現状を変更する程度に店舗の改装を実施した所…