刑法第九六条にいわゆる「差押ノ標示ヲ損壊シ」または「無効タラシメタ」ものとして、同条所定の犯罪が成立するためには、有効な差押の標示の存在を前提とするものであることはいうまでもないところであるから、本件差押の標示が被告人の在監中にその長男Aにより既に剥離損壊され、差押の標示としての効用を滅却されるに至つたものとすれば、その後において被告人等が原判決認定の如く本件差押にかかる物件を他に搬出転移した行為は、なお別罪を構成する余地ありとしても、同条所定の犯罪を構成するいわれはないものといわなければならない。
差押の標示が剥離損壊された後に、差押物件を擅に搬出転移した行為と刑法第九六条の罪の成否
刑法96条,刑法252条2項,民訴法756条,民訴法748条,民訴法566条2項
判旨
刑法96条(現96条の2第1号)の封印等破棄罪が成立するためには、行為時において有効な差押の標示が存在することを要する。既に第三者によって差押の標示が損壊され効用を滅却されている場合、その後に物件を搬出・移転しても同罪は成立しない。
問題の所在(論点)
既に第三者によって差押えの標示が物理的に剥離・損壊され、その効用が滅却された後に、当該物件を隠匿・移転する行為が、刑法96条(封印等破棄罪)の「差押えの標示を無効にした」場合に該当するか。
規範
刑法96条(現行法96条の2第1号に相当)にいう「差押えの標示を損壊」し、または「無効にした」ものとして同罪が成立するためには、客体として有効な差押えの標示が存在していることを前提とする。
重要事実
仮処分により差し押さえられていた物件について、被告人の共犯者であるBの長男Aが、Bの在監中に既に差押えの標示を故らに剥離・損壊していた。その後、Bが出所してから、被告人はBと共謀の上、当該物件が仮処分にかかるものであると知りながら、これを目的に反して自己の居宅に搬出した。
あてはめ
原判決は、本件差押えの標示が被告人の搬出行為より前にAによって剥離損壊されていた事実を認定している。そうであれば、搬出時点において有効な差押えの標示は存在せず、差押えの標示としての効用は既に滅却されていたといえる。したがって、その後の搬出行為によって新たに「標示を無効にした」と評価することはできない。物件の移動が差押えの執行それ自体の効果を減殺するとしても、本条の構成要件には該当しない。
結論
既に標示が損壊されていた以上、刑法96条所定の罪は成立しない。原判決には法令の解釈適用の誤りがあるため破棄を免れない。
実務上の射程
本判決は、封印等破棄罪が「標示」という物理的実体を媒介にした罪であることを示している。標示が既に失われている場合に、差押えの効力自体を侵害する行為(隠匿等)については、現行法上は強制執行妨害目的等があれば第96条の2第2号(現行)等の成否が問題となるが、第1号の「標示」を客体とする罪としては否定される。答案上は、行為時に有効な標示が存在するかという客体の存否を検討する際に活用すべき射程である。
事件番号: 昭和26(あ)3936 / 裁判年月日: 昭和28年5月13日 / 結論: 棄却
被告人が仮処分命令(被告人の占有を解いて執行吏の保管に移し、被告人にその劇場の経営を禁じたもの)に違反し、その公示板の上から映画ポスターをかけてこれを見えないようにし、右建物を使用して、映画、興行を経営した以上、刑法九六条所定の「差押ノ標示ヲ無効タラシメ」た罪に該当することは勿論である。