本件は被告人が新聞「A」に記事を掲載した事実を処罰の対象としているものではなく、記事の掲載を種に金員を喝取した恐喝の事実を処罰の対象としたものである。そして記事の掲載を種に金員を喝取する場合に右掲載を種とすることが恐喝罪が成立するためのいわゆる害悪の通告に当ることは言を要しないところである。それゆえ所論違憲(言論、出版の自由)の主張は、その前提を欠くものであつて失当である。
恐喝罪の成立要件としての「害悪の通告」にあたる一事例
刑法249条,憲法21条
判旨
新聞記事の掲載を種に金員を喝取する行為は、恐喝罪の構成要件である「害悪の通告」に該当し、表現の自由の侵害には当たらない。
問題の所在(論点)
新聞記事の掲載を材料(種)として金員を要求する行為が、刑法249条1項の恐喝罪における「害悪の通告」に該当するか。また、これを処罰することが表現の自由に抵触するか。
規範
恐喝罪における「脅迫」とは、相手方の畏怖を生じさせるに足りる害悪の告知を指す。新聞記事の掲載のような、本来は表現の自由として保障され得る行為であっても、それを金員喝取の手段として用いる場合には、恐喝罪の「害悪の通告」に当たると解される。
重要事実
被告人は、自らが関与する新聞「A」に特定の記事を掲載することを計画し、当該記事の掲載を回避したい相手方に対し、掲載を「種」として金員を要求し、これを喝取した。被告人側は、この記事掲載行為を処罰の対象とすることは表現の自由を保障する憲法に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において処罰の対象となっているのは、純粋な新聞記事の掲載行為そのものではなく、記事の掲載を材料に相手方を畏怖させて金員を喝取した恐喝行為である。記事掲載という事実を背景とした金員の要求は、相手方の意思を抑圧し得る「害悪の通告」としての性質を有しているといえる。したがって、正当な言論活動の範囲を逸脱した金員喝取の手段としての告知である以上、恐喝罪の成立は免れない。
結論
記事掲載を種に金員を喝取する行為は恐喝罪における害悪の通告に該当し、これを処罰することは憲法に違反しない。
実務上の射程
権利行使を装った恐喝の事案における「害悪の告知」の該当性判断に活用できる。正当な権利(表現の自由等)の行使に見える外形を伴っていても、その実質が不法な領得の実現にある場合には、恐喝罪の実行行為性を肯定する有力な根拠となる。
事件番号: 昭和34(あ)914 / 裁判年月日: 昭和36年5月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】報道のための取材活動であっても無制限ではなく、新聞記事の掲載を口実とした恐喝の手段として行われた場合には、刑法上の罪責を問うても憲法21条に違反しない。 第1 事案の概要:日刊新聞の編集者である被告人が、新聞記事の掲載を口実として、相手方を畏怖困惑させる意図で取材・調査を行い、投資を受ける名目で金…