他人に対し権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であつて、且つその方法が社会通念上一般に、忍容すべきものと認められる程度を越えないかぎり、なんら違法の問題を生じないけれども、右の範囲又は程度を逸脱するときは違法となり恐喝罪又は脅迫罪の成立することがあると解するのを相当とする。そして被告人の採つた債権の行使は、社念通念上一般に、債務者の忍容すべきものと認められる程度を明らかに越えるものであるから、たとえ取り立てた金額は、債権の範囲内であつても、その方法において違法たるを免れないのである。従つて、仮りに所論によつても、少くとも脅迫罪の成立することは明らかであり、原判示の量刑はその刑期の範囲内であつて、且つ原判決の認定した事実によればその量刑は原判決を破棄しなければ著しく正義に反する場合とも認められず、論旨は、この点においても結局とることはできない。
権利行使の方法が違法と認められ恐喝罪又は脅迫罪の成立を免れない一事例
刑法249条,刑法222条,刑訴法411条
判旨
権利行使の手段として行われた恐喝・脅迫行為は、行使される権利の範囲内であり、かつその方法が社会通念上一般に忍容すべき限度を超えない限り違法性は否定されるが、これを超える場合には恐喝罪や脅迫罪が成立する。
問題の所在(論点)
正当な債権を有する者が、債権の取立てのために脅迫的な手段を用いた場合、恐喝罪(刑法249条)や脅迫罪(刑法222条)の違法性が阻却されるか。いわゆる「権利行使と恐喝」の限界が問題となる。
規範
他人に対し権利を有する者がその権利を実行することは、①その権利の範囲内であり、かつ②その方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り、違法性を欠く。しかし、右の範囲または程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪または脅迫罪が成立し得る。
重要事実
被告人は、債務者である証券会社の社長に対し、債権を実行(取立て)するにあたり、何らかの威迫的な手段(詳細は判決文からは不明)を用いて金員を徴収した。取立てた金額自体は債権の範囲内であったが、その手段・方法の態様が問題となった。
あてはめ
本件において被告人が用いた実行方法は、たとえ取立てた金額が債権の範囲内(要件①充足)であったとしても、社会通念上一般に債務者が忍容すべきものと認められる程度を明らかに超えるものである(要件②不充足)。したがって、このような権利行使の方法は違法性を免れないというべきである。
結論
被告人の行為は、少なくとも脅迫罪(または恐喝罪)の成立を免れず、有罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
自切行為(自力救済)の禁止を背景としつつ、実社会における正当な権利行使を保護するための基準を示したもの。答案上は、権利の存在という「目的の正当性」だけでなく、手段の「相当性」を社会通念に照らして判断する二段階の枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和26(れ)77 / 裁判年月日: 昭和26年6月1日 / 結論: 破棄差戻
被告人が甲に対し弁償金を要求する権利を有していたか否か、又有していたとしても被告人の行為が該権利を行使する意志に出たものでしかもその権利行使の範囲内に属するものであるか、或は単に権利行使に藉口し若しくはこれに仮託したものであるかの点を明確にしないで、「被告人は甲がその約束を果さなかつたところから弁償金として金一万円を請…