被告人が甲に対し弁償金を要求する権利を有していたか否か、又有していたとしても被告人の行為が該権利を行使する意志に出たものでしかもその権利行使の範囲内に属するものであるか、或は単に権利行使に藉口し若しくはこれに仮託したものであるかの点を明確にしないで、「被告人は甲がその約束を果さなかつたところから弁償金として金一万円を請求していたか、遂に甲を脅迫し右一万円中の五千円を喝取した」との事実を認定し、被告人を恐喝罪に問擬した原判決は、審理不尽に基く理由不備の違法がある。
恐喝手段が権利行使の意志をもつてなされたものであるか否か判文上不明な場合と理由不備
刑法249条,旧刑訴法410条19号
判旨
権利者が権利行使として恐喝的手段を用いた場合、それが正当な権利行使の範囲内であれば恐喝罪は成立しないが、権利行使に藉口しあるいは仮託して行われた場合は恐喝罪を構成する。
問題の所在(論点)
権利者が債権回収等の権利行使の手段として脅迫・強迫を用いた場合において、恐喝罪(刑法249条1項)が成立するか。権利行使の正当な範囲の限界が問題となる。
規範
債権者が債務者に対して畏怖させて財物を交付させた場合、①真実権利が存在し、②その権利実行の意思で行われ、かつ③それが権利行使の範囲内に属すると認められるときは、他罪(暴行罪等)を構成し得ても恐喝罪は成立しない。しかし、権利行使に藉口し、あるいはこれに仮託して行われたものであるときは、権利の有無にかかわらず恐喝罪が成立する。
重要事実
被告人は、Aが約束を果たさなかったことの弁償金として1万円を要求していた。被告人は共犯者Bと共謀し、Aを呼び出して「5千円を20日以内に作って来い、それまでの間服と靴を置いて行け」と要求した。Aがこれを拒絶したため、その場で畏怖させて服と靴を交付させた。原判決はこれらの事実から直ちに恐喝罪の成立を認めた。
あてはめ
原判決の認定によれば、被告人がAに対し実際に弁償金を請求する権利を有していたのか、また仮に権利があったとしても本件行為が真に権利行使の意思に基づいたものかどうかが不明である。もし真実の権利に基づく行使であり、かつその範囲内であれば恐喝罪は否定されるべきであるが、単に権利行使の名を借りた(藉口・仮託した)不当な利得目的であれば恐喝罪を免れない。原審はこれらの点(権利の存否、意思、範囲)を十分に審理・解明していない。
結論
被告人の所為を直ちに恐喝罪と断定することはできず、審理不尽・理由不備の違法がある。原判決を破棄し、広島高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
権利行使と恐喝の区別に関するリーディングケースである。答案上は、社会通念上相当な範囲を逸脱しているか否かの基準(手段の相当性、金額の妥当性等)を具体化する際に、本判決の「権利行使に藉口・仮託」という表現を引用し、実質的な法益侵害(他人の財産秩序の攪乱)の有無を論じる際の論拠とする。
事件番号: 昭和26(れ)119 / 裁判年月日: 昭和26年5月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利行使を仮装したとしても、実態として正当な権利行使の意図がなく、第三者のための逃亡資金調達等の目的で脅迫を用いて金員を交付させた場合は、恐喝罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人は、Aに対し30万円の支払を請求できる正当な貸金債権をBから譲り受け、その債権行使として5000円の交付を受けた、あ…