判旨
故意の成立には、行為が法に触れるものであるという違法の認識は必要ではなく、罪となるべき事実の認識があれば足りる。
問題の所在(論点)
刑法上の故意(犯意)が成立するために、行為が法律に違反することの認識(違法の認識)が必要か、あるいは構成要件的事実の認識があれば足りるか。
規範
犯意(故意)の成立には、自己の行為が法律上禁止されていることの認識(違法の認識)までは必要としない。構成要件に該当する客観的事実、すなわち「罪となるべき事実」の認識があれば、故意の成立を認めるに足りる。
重要事実
被告人は、連合国占領軍将兵の財産であるオートバイを買い受け、所持した。被告人は、当該オートバイが「帰還する進駐軍兵隊の私物であり、売却を頼まれた正当な品」であるとの説明を信じて購入したと主張。そのため、昭和22年政令165号(連合国占領軍将兵からの物資譲受等の禁止)に違反するとの「違法の認識」がなかったとして、犯意の成立を争った。
あてはめ
被告人は、本件オートバイが連合国占領軍将兵の財産に属することを知りながら買い受け、所持していた。この事実は、処罰規定の客観的構成要件(罪となるべき事実)に該当する。被告人が「私物であるから買受けても差し支えない」と信じており、当該政令に違反する認識を欠いていたとしても、それは法律の知らざるに過ぎず、客観的な事実の認識を左右するものではない。したがって、故意を認めるに何ら妨げはない。
結論
被告人に違法の認識がなかったとしても、罪となるべき事実の認識がある以上、犯意の成立に欠けるところはなく、有罪と解される。
実務上の射程
故意の成立に違法の認識は不要とする「厳格故意説」を否定し、事実の認識があれば足りるとする立場(制限故意説以前の通説的判例)を示す。答案上、事実の錯誤と法律の錯誤を区別する際の基礎理論として引用できるが、現代の学説(責任説)や違法性の意識の可能性の議論との整合性には留意が必要である。
事件番号: 昭和24(れ)2276 / 裁判年月日: 昭和25年11月28日 / 結論: 棄却
自然犯たると行政犯たるとを問はず、犯意の成立には、違法の認識を必要としない。
事件番号: 昭和23(れ)775 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
論旨は、政令の公布後短日月なること等より當時被告人は、當該行爲が法令上禁止せられているとの意識がなかつたと主張するのであるけれども法の不知は犯罪の違法性を阻却するものでないことは刑法の規定するところであつて、かりに被告人が具體的にいかなる法令によつてその行爲が禁止せられているかを知らなかつたとしても既に前段説明のごとく…
事件番号: 昭和26(れ)485 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
一 原判決はその事実摘示(第一審判決の記載引用)において、被告人Aが二回に亘つて占領軍兵士某から占領軍物資を収受して不法に所持した旨を判示しているが、二個の占領軍物資不法収受罪乃至同所持罪を認定したのではなく、包括して一個の同所持罪を認めたものであることがその判文上からおのづからわかる。論旨は原判決が二個の犯罪を認めた…
事件番号: 昭和24(れ)2741 / 裁判年月日: 昭和25年3月16日 / 結論: 棄却
政令第一六五號違反の罪は、占領軍物資であることを認識してこれを買受ける場合に成立し、賍物故買罪は賍物であることを認識してこれを買受ける場合に成立する。この二つの認識が同時に存在する場合には二つの罪が成立するが、その中一つの認識しか存在しない場合には一つの罪のみが成立することは當然である。この兩罪が起訴された場合において…
事件番号: 昭和26(あ)284 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」の概念については、物の事実上の支配を意味するものであり、原審の解釈に誤りはない。また、被告人の主張する免責事由が認められない以上、当該所持行為を罰することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は軍票(軍用手票)を所持していたとして起訴された。被告人は、当該軍票を所持するに至った経…